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その夜…… 「……ちょっと、調子に乗りすぎちゃったな……。 それにしても、かがみ……」 こなたのことは嫌いじゃないけど…… こなたの気持ちがどうしても固まってるのなら……私…… 「かがみ……私のこと、どう思ってたんだろ……」 私だって、かがみのこと嫌いじゃないけど、 それは友達として……のはずなのに、 何だろう、この胸が締め付けられるような感じは…… この気持ち……前にも……どこかで…… (……ここは……どこ……?) そこは私の部屋ではないけど、見覚えのある場所。 周囲からは歓声。 (ここは……そうだ…… 私かがみ達とコンサートに来てたんだっけ……) 正面ステージからは、私の好きな声優の歌声が聴こえる。 だけど、正面には背の高い男。目的の声優の姿は見えない。 (うう、邪魔だよ~…… 折角入場できたのに、これじゃ……) 「ほら、こっち」 (あ……) 左から私の手を引っ張る、優しく微笑む人。 (そうだ……かがみはこの時に席譲ってくれたんだ…… ……そっか、今私が見てるのは……) 気がついたら、朝日が部屋を照らしていた。 今のは……夢……? いつの間にか、寝ちゃってたみたい。 でも見た夢の感覚、いや現実に体験したあの時の感覚は 今でも鮮明に残ってる。 あの時は、コンサートを見れた感動で しばらく惚気てたんだと思ってた。 でも……今なら、あの時感じた気持ちの理由も分かるよ。 私は……本当は……。 後編「幸せはいつも傍に」へ続く コメントフォーム 名前 コメント
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「かがみ…」 学校も夏休みなある日、私はとある洋館に来ている。 「かがみぃ…」 今日はここでこなたとお泊りだ。もちろん二人きりで… 「かがみ…?」 なんで洋館なんかに来ているのかって?だってそれは… 「かがみぃ…っ!」こなたとの大切な二週間記念日だから… ~想いが重なるその前に(1)~ 「かがみん~!」 私を呼ぶ声がする。このちょっと気の抜けた可愛い声。 「あいつだな。」そう呟いて振り返る。小走りで近づいてくるまるで小学生のような小さい体。長い長いストレートの髪には鮮やかな蒼と飛び出る一本のアホ毛。そして私を見つめるエメラルドグリーンの瞳。どこをとっても私の一番のアイツ。 「こなた!?」 分かってはいたけれど少し驚いたような振りをした。 「やふ~かがみん!今日も一段と綺麗だね~。」 「い、いきなり何言い出すのよこんな朝早くからっ!しかも日本語間違ってないか?」 「まあまあ、細かいこと気にしないで~。この前あんなに愛し合った仲ではないか~。」 「なぁっ!!」 私の顔が真っ赤に染まる。朝っぱらからなに言ってくれるのよこいつは。 確かに一緒に寝たりして…き・きき・・キスとかしちゃったりしたけど…あ、愛し合うとかそんな先のことなんてしてないはず… あれ?でもでも、もしかして寝てる時に暴走しちゃたとか…?いや、そんなことは…でもひょっとして… 「あれあれ~?顔真っ赤にしてまた変な妄想してるのかな?かな?かがみはかわゆいね~。」 「う…あん、あぅ…」 なにも言い返せん…やっぱりこいつに弄ばれるのか… 「さあさあ、早く行かないと学校に遅れるよ。あと三日で夏休みなんだし気合い入れていこー!」 そう言ってこなたは私の手を握る。 「ちょ、ちょっと!誰かに見られでもしたら…」 「いいじゃん別に~。かがみんとはいつでもラブラブしたいのだよ!なんならこっちの方がいい?」そう言うとこなたは私な腕を引き寄せた。背の小さいこなたの顔がちょうど私の胸の位置にくる。いわゆる恋人組み?私に寄り添うこなたの表情はとても幸せそうだ。 「ね?いいでしょ?」 「…う、うん…悪くない…かな。」 「えへ~、デレかがみん全開萌え~。」 歩きながらふと上を見上げる。視界には突き抜けるような青い空。あと少しで夏休み。なにかいいことが始まりそうな、そんな期待を抱かせる青い青い空がそこに広がっていた。 …「お姉ちゃんとこなちゃん…どんだけ~」 コメントフォーム 名前 コメント
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貴女との再会にはホットチョコで(後日談) 私-柊 かがみは、随分とぬるくなってしまった、ホットチョコをほんの少し口にして、こなたに向かって呟いた。ほんの少し意地悪を込めて、不機嫌そうに。 「あんた、キスくらいは彼氏作りまくってたんだったら、うまいもんだと思ったけど・・・」 不機嫌そうに言ってやったのに、こいつときたら、いけしゃあしゃあとまぁ、 「いやー、かがみの事を思い出すとさ、キスなんて、出来なくて。ましてやその先なんて、おかげさまでまだ…むぐっ」 と、危ない発言まで、かましそうになってくれる。 「その先は言うな、いくら個室でも隣に聞こえるから」 私達は、結局ホットチョコをもう二つオーダーして、それが来てから何度も口付けを繰り返した。あれから三年、卒業式の後のしょっぱい口付けが甘い思い出に変わるまで、何度も、何度も…いっそ舌を絡ませてしまいたいくらいだった…が、お互いそこまでは望んではいないのだ。ただ、重ねるだけで良い、それだけで、私達の溝は埋まって行く。 最も、私は、こなたがもっと、キスが上手いと思ったのだけれど…正直、当てが外れた。こいつときたら…全く、はぁ。私にだってほかの誰かとの経験が無いわけじゃなかったけど、付き合ってきた人数だけを言うなら聞いた話、こなたは、桁が違うわけで。と言っても、私の場合…彼氏じゃなくて、後学のためだって酔った私に、酔ったあの先輩が勢いで教え込むように襲われただけだけど。 「あんたは、バンパイアか…。キスってのは吸い付く事じゃないのよ」 最も、吸い付きたいと言うのは多分、お互いもう二度と離れたくないと言う事だと思うけど、おかげで唇が真っ赤になって少しヒリヒリする。 「いやーかがみエキスを補給したくて、ね!」 「いや、エキスとか表現おかしいから」 こうしていると三年も会っていなかったなんて、嘘みたいだった。 「ふぅ、最初は緊張したけど…かがみが普段通りで良かったよ」 こなたも少しだけホットチョコを飲んで、ふぃ~っと一息ついた。そこを狙って、そのまま唇を奪った。 「か、かがみぃ?」 すぐに離したのだけど、びっくりして驚いているこなたを見るのは少し愉快だった。 「チョコと私とどっちが甘かった?」 なんて事を聞いてみると、顔を真っ赤にしてモジモジしてる。顔が真っ赤なのは私も同じだろうけど…ね。 「か、かがみかな。…というわけで!」 急にこなたが立ち上がってダンとテーブルをたたいた。その行動にあっけに取られているうちに今度は、私が唇を奪われた。こなたの体躯は殆ど変わっていないのだ。体を伸ばしてもテーブル越しでは多分、辛い。 私は、軽く目を瞑ると、こなたの肩を抱いて少しだけ体を起こす。こなたも私の肩を抱いて、その口付けは長いものになった。 しばらくそのままで…終わりは名残惜しい。唇にあった温もりが離れて、こなたの体が離れて、私達は再びテーブルを挟んで腰を下ろした。 「チョコと私とどっちが甘かった?かがみんや」 さっきの仕返しだと言わんばかりだったから、はっきり言ってやった。 「こ・な・た」 あぅ、それは…かがみらしくないよ、というかデレ期前線発生中なんだろか、とかモゴモゴと、こなたは真っ赤になって喋っていた。 「そろそろ、待ち合わせに遅れるにしても不味いわね」 私は、こなたの方に笑いかけて、腕時計を見る。本当なら、つかさの家についていないといけない時間。 「で、電話してちょっと遅れるって言えばいいじゃん!」 最初と違って、今度はこなたがここから出たくは無いと言わんばかりに口をアヒル口にして不機嫌そうに言った。 「でも、四人出会うのは久しぶりなのよ。やっぱり、遅れたら二人に悪いでしょ?」 「だって、さぁ…ここから出たら、夢から覚めるみたいになくなっちゃう気がしてサ」 何が…なんて無粋な言葉は要らない。 「そうね。でも、覚めないわよ。夢じゃないから」 残りのホットチョコを飲み干してしまう。こなたは、未だカップを持ったまま、中身をじっと見つめていた。 それは、そのコップの中身が、この世の終わりを告げる希望の残量とでも言わんばかりに虚ろな目をして見つめていた。確かに、そのコップの中身が無くなればここを出なければいけない。 私だって…怖くないわけじゃない。やっぱり、三年という溝を埋めるのは難しい。溝を埋めるには溝が出来たのと同じだけの時間が必要だ…ひょっとしたら倍以上の時間が必要かもしれない。 「ねぇ、こなた。私はさ…こなたとずっと一緒にいたいわ。言葉だけじゃ足りないのはわかる、私だって怖いから。キスだけじゃ怖い、そうね、私も怖いから…どうすればいいと思う?」 私は、答えを持っていなかった。だから、優しく問いかける事しか出来なかった。 しばらく、虚ろな目でカップを見つめていたこなたは、何を思ったのか、コートを羽織って持ってきていたナップザックを背負った。 こなたが私を見る。その目は同じ様にここを出る支度をして欲しいと言っているように見えたので、私もコートを羽織る。 「かがみ、一つだけお願いを、きいてくれる?」 「ん、流石にここの外に出てすぐキスとかは、は、恥ずかしいわよ?」 こなたは、違うよ。それだけ言って、もう一度同じ問い掛けを私にする。 「…一つだけ、お願いを聞いてくれる?」 「内容にもよるけど…大抵の事は大丈夫よ、聞くわ」 そういうと、こなたは、私にしがみ付いて、泣き出してしまった。声を出さず、漏れる嗚咽も何とかこらえて。 こなたは、幾度、こうして泣いてきたのだろう。私には願う事しか出来ない、この涙がどうか、これで終わってくれるようにと。どうか、これ以上こなたの心に傷がつかないようにと。 「あはは、ごめん、かがみん。いやーなんか、かがみんに会ってからずっと、私らしくないや」 「いいのよ。それも…あんたなんだから」 その言葉に頷いて、こなたは、意を決したように口を開く。 「ここを出る前からずっと、つかさの家について、つかさの家に入るまで、ずっと、手を繋いでくれるカナ?」 私は少し拍子抜けしていた。それでも、こなたにしてみれば、三年間前に拒絶された想い人への願いなのだ。肩が震えて、表情も不安が詰まっている。 「いいわよ。絶対離さない」 「本当に?ずっとだよ、皆が見てる中をずっとだよ。途中でやっぱり恥ずかしいってのは無しだからね?わかってる、かがみんや」 「なんなら、接着剤でくっつける?」 「いや、それはいろいろ問題がある気がするというか、かがみん、それどっちかと言うと私がいうべき言葉なんじゃないかと」 「じゃ、繋ぐわよ」 「え、あ、うん」 私達は手を繋いだ。どっちのコートも手首までの長さしかない。ずっと、見られて行くわけだ。でも、離してはいけない…離してしまえば二度とこの手は、恐らく私の手に戻ってはこないのだから。 「あ、お会計のほうは、芹沢さんがバイト代から引いといてって入ってたから大丈夫ですよ」 片手で何とか財布を開いて、お金を出そうとしていたらそう言われた。 芹沢さんというのは、私の味方になってくれると言ってくれたあの先輩の名前だ。そこまで気を利かせてくれる人には見えないが実はかなりの世話好きで・・・ 「あと、お幸せにと伝言を頼まれましたので、ちゃんと伝えましたよ」 お節介焼きだ。レジを担当していた男の人の視線はすでに冷たかった。 いいんだ。一人じゃ耐えられなくても、二人じゃ耐えられなくても。私には、あの先輩や、みゆきやつかさがいるのだから。 きっと耐えていける。 もっとも、この後が大変だったんだけどね。ここからつかさの住んでいるアパートへ向かうにはバスに乗らなくちゃいけなくて、片手で財布を開けるのは大変なのに。 「あ、こなた。あんた、片手開いてるんだから、財布からカード出すの手伝いなさいよ」 「へっ?あ、うん。でも、かがみんや…視線が痛くないかい?」 「う・る・さ・い。手を離せないだから仕方が無いでしょ?それとも、離して欲しいの?」 「かがみんや…覚悟を決めてるね。財布のどの辺にカードあるの?」 多少もたつきながらバスカードを出して、大人二人と運転手に言えば、珍獣でも見るような目で見ていた。後ろで順番を待っている人もだ。 「すいません、大人二人お願いします。後ろ使えてるんで」 「あぁ、はい。えっと大人二人ね」 運転手はささっとボタン操作をする。そしてカードを通して、バスから降りて今はまだ、咲いていない桜並木を歩くとつかさのアパートなんだけど。 「随分遅れちゃったわね」 「いや、それはそうと、かがみんは……本当に覚悟を決めたんだね」 こなたがこっちを見ていた。そのまま、どちらともなく、口づけをする。桜の木にもたれ掛かってだから、道の真ん中ではないし、人通りがそんなに多いわけじゃない。 男女のカップルが道の往来で口づけをするのを見て、不快に思った事がある。でも、今は私とこなたがそれをしている。男女のカップルが口づけをするのが不快なら、私達の場合はもっと不快だろう。 「お姉ちゃんっ」 「ふふっ、仲が良い様で。でも、人通りの多い場所で口づけをするのはあまり関心しませんよ」 みゆきとつかさが、私達を見ていた…流石に恥ずかしくなって唇を離す。 「いやーかがみんに食べられる所だったよ、助かったよ、つかさにみゆきさん」 「いや、こなた、あんたも結構乗り気だったじゃない……てか、食べるって私は何だ!?」 つかさは真っ赤になっていたし、みゆきは相変わらず柔和な微笑みを浮かべていた。 「あんまり遅いからちょっと散歩がてらにゆきちゃんと歩いてたらお姉ちゃんと、こなちゃんが、えっと、その…」 「お邪魔して申し訳ないですが、悪気は無かったので許してください」 みゆきさーん、つっかさー、おっひさーと元気に飛びつくのはいいんだけど、手を繋いだままの私は、あっちへ揺られ、こっちへ揺られ、たまったものではない。 でも、楽しそうなこなたを見ているのは、悪くなかった。四人で笑いあう日が帰ってきたんだから。 そのまま、昔話や最近の話をしながら、私達は、つかさのアパートへと向かい、玄関をくぐった。 「おめでとう、こなちゃん。良かったね」 「おめでとうございます、泉さん」 つかさのアパートの玄関に入った所で、二人はこなたにそう告げた。 詳細は省くが、ここまでの道のりを手を繋いでやってくる事は、予め計画されていた事らしかった。 最も、私とこなたが偶然に出会ってしまったという誤算はあったらしいが、結果オーライだよ、お姉ちゃん!とつかさに誤魔化されてしまう始末。 「つまり、計画的だったわけね?」 「えぇ、かがみさんがつかささんに泉さんの事を相談したときから、私とつかささんで一生懸命考えたんですが、お二人が偶然出会ってしまうアクシデントの性で計画の9割は失敗してしまいましたけど、結果的にお二人が結ばれて良かったと思っています」 「えへへっ、ご、ごめんね。お姉ちゃん」 「いやー、かがみんから被害をこうむるのは多分、私だけだと思うから二人は大丈夫だと思うよ……」 そんなに怖いか…私って。こなた、顔色青いし。 「別に誰にも被害なんて行かないわよ。そうね、確かにこなたには被害がいくかもしれないわね……今日は私の傍から離さないから」 「へっ?」 「今日は、ううん。ずーっと、こなたは私専用。誰にもあげないわよ」 言ってて、自分が恥ずかしくなってしまった。ある意味プロポーズみたいなものなのでは。 「それは、一体どういうことなのでしょう、かがみ様?」 「こなたは卒業したら私のアパートに来ること、異論は認めない。その後の事は私の成績しだいね」 「うわー、こなちゃんとお姉ちゃんって……すごいね」 「ここまでくるのに世間の目に触れたと思いますが、大丈夫ですか?」 つかさとみゆきが別々の意味のこもった言葉を口にする。 みゆきの言葉の意味は良くわかっている。 「みゆきやつかさは、味方になってくれるでしょ?だったら大丈夫よ。私達は背負って行ける。何よりもう、こなたを離したくないから……」 「えぇ、私達は泉さんやかがみさんの味方ですよ」 「何が出来るかわからないけど、私がんばるから!お姉ちゃん」 欲しかった言葉は聞けた。 だからもう、こなたを離さない、二度と絶対に。今度はうれし泣きなのか、私から手を離してしがみ付いて、泣き出してしまった。 私も涙が止まらなかった。嬉しくて、嬉しくて。私達は二度と離さない。二度と離れない。想いは永遠に繋がっていられるのだから。 私達が落ち着いてから、私達は、高校時代の話や、つかさやみゆきの彼氏の話など、四人での同窓会をたっぷりと満喫した。 最も、私は、相変わらずアルコールには強くなくて、途中でリタイアしてしまったけれど、とても楽しい時間だった。これからは、都合が合えばいつでも“四人”であえる。 その幸せをかみ締めながら、私は、眠った。 余談だが、酔ったこなたは私の頬に、こなた専用と水性マジックで書きやがった……ので、朝それを見た後、こなたの頬にかがみ専用と書いてやった。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-01 07 53 05) ええ話や -- 名無しさん (2010-02-28 22 51 53) 予断 余談 いい話でした、GJ -- 名無しさん (2009-07-19 20 56 27) すっごく可愛いお話でした!正直キュンとした!GJ -- 名無しさん (2009-03-08 22 21 19) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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何気ない日々:膝を抱え込むように悩む二人 これからどうしたもんか。うまく立ち回っているから誰にもバレてはいないと思うし、バレていたら、皆と一緒にこうして笑っていられるとは思わないけど。 それでも油断したらバレてしまいそうな不安と、いっそ、バレてしまった方が楽になれるんじゃないかなという、そんな自堕落な感情に振り回されながら過ごしている気がする。 あの夜の、かがみの手の温かさと安堵感、それに・・・気恥ずかしくて、けれど誰にも言えない切ない胸の高鳴りを。 私は、かがみがお見舞いに来てくれていたあの日の深夜に目を覚ました。何をきっかけに目を覚ましたかなんてわからない。 目を開けたときにはかがみはいないんじゃないかなって思ったんだけど。そこは流石、かがみだね。ちゃんと手を握ったまま椅子に座って傍にいてくれた。 椅子に座ったまま、頭が揺れるたびに一緒に揺れる二房の髪の毛が、かがみらしくなくて声を殺して笑ったんだっけ。 しばらく、そんなかがみを見ていた。一定の間隔を保ったまま器用にバランスをとりつつ揺れているのは、とても貴女らしいと思った。 気がつかなかったけれど、雨はいつの間にか上がっていて、開いたカーテンから降り注ぐとても美しい月明かりの中にいるかがみが、その光を受けるかがみがとても美しく見えて、呆然と、唯唯、見惚れていたんだ。そして・・・その唇にも。 ―それから。 「ごめんね、かがみ・・・」 私は、約束を守りつつも座ったまま、熟睡しているかがみの唇にそっと口付けをした。 卑怯なことだと思う。今度のは、事故じゃなくて、ただの自己満足の口付け。 それは、甘酸っぱいなんてそんな感じじゃなくて、現実感が薄くて温かくてしょっぱかった。私は、またいつの間にか泣いていたらしい。 その涙は多分・・・ きっと、月明かりに照らされて消えてしまいそうな貴女の美しさに。 きっと、約束を守ってくれている貴女への裏切りという罪悪感に。 ―ねぇ、かがみ?こんな想いを胸に持ったままの私をまだ貴女の傍にいさせてくれますか? 私の風邪が治って一週間もたたないうちに今度はかがみが風邪をひいてしまった。よく漫画やアニメであるけど、風邪は感染(うつ)せば治るって。 やっぱり、あのキスがまずかったかなぁ。でも、そんなこと誰にも言えないし。 「どうも、私の風邪がお姉ちゃんに感染しちゃったみたいで・・・はぁ~」 つかさがため息を吐いてうな垂れる。心なしか髪を結っているリボンもしおれているような感じだ。 「いやー、もしかしたら、私の風邪が時間差で感染っちゃったのかもしれないし、つかさの所為とはいえないよ」 唯、単純にあの時、かがみが起きてて、顔を合わせづらいから風邪って事にしてもらって休んでるんじゃないかなぁって疑ったりもしたけど、流石に家のお父さんじゃないしズル休みなんてそうそうさせてもらえる訳ないよね、とりあえず、そう信じておこう。 「最近、急に冷え込んできましたから、仕方が無いですよ。私も気をつけないといけませんね。でも、風邪は治りかけが危ないといいますし、つかささんや泉さんも気をつけてくださいね?」 みゆきさんが心配そうに呟いた。やっぱり私達は四人いないと少し静かになってしまうようだ。 「かがみさんも、そんなに酷くないといいのですが・・・」 「とりあえず、インフルエンザじゃないから、きっとすぐ治るよー、ゆきちゃん」 つかさが笑顔で言うものの、会話はそれ以上続かず、私達は黙々と昼食をとった。 今度は私がお見舞いに行くべきかなぁ。何も持っていかずに帰りにちょこっと顔を見に行く位がやっぱり私らしいよネ。 「今度は私がお見舞いに行こうカナ」 ほかに話題も無かったので、そう呟くと、 「お姉ちゃんが、こなちゃんは治りかけだし、ゆきちゃんは感染るといけないからお見舞いは気持ちだけでいいって伝えておいてって言ってたよ」 「そっか・・・」 「そうですか・・・」 お見舞いは駄目らしい。私の場合は前科があるから、警戒されてるのもあるんだろうけどネ。自分が風邪をひいてるのに人の心配をするというのもかがみらしいな。 「そういえば此間、こなちゃんのお見舞いに行ってからお姉ちゃん、ちょっと雰囲気変わったような気がするんだけど、なんでかなぁ~。こなちゃん知らない?」 つかさの目はこっちを向いているのに見ているのはどこかわからない。自分の世界に入ってしまった感じだ。 「い、いや、と、特に心当たりは無いヨ?」 あまりに突然のことに声がわずかに裏返ってしまった。それも困った事に、その何かに心当たりになりそうな前科もあるし・・・あの時、起きてたとしたら気持ち悪いとか思ってるのかもしれないしなぁ。 「ふふっ、そうですか。どんな風に変わったんですか?」 「うーん、何だかぼーっとしたり、悩みこんだり、たまに百面相してるから」 「そうですか。大丈夫ですよ、かがみさんなら」 「そうだよね、お姉ちゃんなら大丈夫だよね~」 何か、みゆきさんがほんの一瞬こっちに目を光らせたような気がするけど、気の所為だよネ・・・眼鏡に光が反射しただけだよネ・・・? 「おぉぅ、あのかがみに悩みとな!ここは、私が一肌脱ぐしかないよネ、やっぱり!」 「ん~、こなちゃん。何に悩んでるのかわからないから、そこから調べないとだめだよ~。でも、お姉ちゃんは悩み事があっても相談してくれないの。・・・私が頼りないからかもしれないけど~」 いや、つかさだからこそ、相談できない悩み・・・なんじゃないカナ。とするとやっぱり、この四人で仲良く過ごせる状況をぶち壊してしまう事態になりつつあるんじゃないだろうか。そう思うと、二人に申し訳なくてどうしたらいいか、全然わかんないよ。 「つかささん、たぶんそうではないと思いますよ。かがみさんは、真面目な方ですからとても難しい悩みがあってもそれを自分で何とかしようとしているんだと思います」 「でも、相談してもらえないのは辛いよ」 「うーん、かがみも罪よのぅ。こんな姉思いの妹のつかさまで悩ませるとは」 「こ、こなちゃん。お姉ちゃんが悪いわけじゃないよ。やっぱり、私が頼りないからだよ」 うな垂れるつかさをどう元気付けたものだろう。さっきから私の言葉はどうしても、つかさにとってマイナスになっているような気がする。いつもなら笑ってくれる所なのに笑ってくれないということは、相当深刻に悩んでいるのだろうか。 「つかささんは頼りなくはありませんよ。だから余計にかがみさんは、つかささんに相談したくないのかもしれませんから。ここは焦らず、少し待ちましょう。かがみさんが本当に助けを求めなければいけない時がきたら、きっとつかささんの事を頼ってくださると思いますよ」 「そうかなぁ~」 「大丈夫です、つかささん一人でその悩みに立ち向かえなくても、私も泉さんもいますから、その時は皆でかがみさんの力になってあげればいいんですよ」 みゆきさんの声は心に直接響いてくる。心から友人を心配して、でも、その友人が助けを必要とするまでは余計なことをして混乱させてはいけないという、どこか凛として一本筋が通っているように。 「そうだよ。つかさも大船に乗ったつもりで、私やみゆきさんにまかせたまへ」 「うん。でも、お姉ちゃんが本当に助けを求めて来てくれた時に、私、気がつけるかなぁ」 まだ浮かない顔をしているつかさ。みゆきさんは、柔和な微笑を浮かべて、 「つかささんなら大丈夫ですよ」 と、締めくくった。その言葉には、つかさにも私にも伝わるくらい、どうしてか説得力がこもっていた。 「泉さんも、何か悩み事で困ったりした時は、私やつかささんを頼ってくださいね」 突然、話を向けられて、口に含んでいた牛乳をふきだしそうになった。 「えっ!?こなちゃんも何か悩んでるの?」 つかさの視線も私のほうに向いてくる。 「いぃ、いやぁ、そ、そんなことないヨ。・・・でも、もしも、みゆきさんが言うように自分ではどうにもならない悩み事ができたら絶対相談するからサ。その時はよろしくー」 噴出しそうになった牛乳をどうにか、むせずに飲み干してそう茶化しながら言う。 そんな私の言葉を聞いた時の、一瞬だけ、私に向けられたみゆきさんの複雑な表情がとても気になったのだけれど、その後、すぐにチャイムがなったのでこの話はお開きになった。 ◆ こなたの風邪が感染ったのか、それとも次の日にこなたと同じように同じ部屋で寝てほしいと寂しがるつかさの風邪が感染ったのか・・・私までもが風邪をひいてしまった。 昔から風邪は感染せば治るというけれど、じゃぁ、二人が元気に学校に言ってるのは私に風邪を感染したからという結論になりそうだ。 「はぁ・・・そう何度も風邪なんてひかないけど、こうやってベッドに寝てるだけっていうのも退屈なものね」 眩暈に頭痛に咳きに鼻水とよくある風邪の症状のオンパレードに襲われたのが昨日の夜。咳きはでるし、頭は痛いし、熱は高いしで、結局眠れずじまいだったので、まだ読んでなかったラノベを端から読んでいたら、夜が明けてしまった。 眠れなかったのは、咳きの所為でも、頭痛の所為でも、熱の所為でもないと思う。 そう、こなたのお見舞いに行って、あいつの我侭を聞いて手を握ったまま自分でも器用だと思うような体勢で熟睡していたときに見た夢の所為・・・だと思う。 その夢は月明かりが眩しくて、こなたと手を繋いでいて、現実のような夢。 しかし、そこからが違う。きっとそれは、私の願望が作り出した幻。その夢の中で私は、こなたに口付けをされる。私の体は動かない、そんな私の唇にそっと、本当にそっと短い間重ねられる、あいつの唇。 嫌悪感は全くなかった。だから、私の願望を表した幻としか思えなかった。 ただ、こなたは唇を重ねる直前、目から大粒の涙をポロリと零すのだ。それが月明かりで煌いて、その煌きが消える前に、口付けは終わりを告げる。 私の願望ならば、せめて・・・せめて、あいつは笑顔でいてくれてもいいのではないだろうか。 どうして、あんな・・・悲しくて胸が張り裂けそうな表情をしていたのだろう。 「あんな夢を見るなんて、こなたに対して・・・ううん、親友に対しての完全な裏切りよね・・・だから、あんなに悲しそうな表情をしていたんだよね」 誰が聞いているわけでもない。今、家には私しかいない。父と母は用事で出かけているし、いのり姉さんもまつり姉さんもその用事について行っている。 もっとも、母だけ違う用事らしいので早めに帰ってこれるといってはいたが・・・お昼を過ぎた今になっても帰ってきていないということは遅くなるということだろう。 「お母さんが早く帰ってきたからって、どう相談するつもりだったのよ」 そう、私は、この気持ちを持て余していた。はっきり言えば不安でたまらなかった。だから、誰かに相談して少しでも負担を減らしたいと思い始めていた。 こうして風邪をひくまでには時間があった。何時ものように待ち合わせをして、何時ものようにじゃれ付いてくるこなたに振り回されて、お昼はみゆきも加わって、何もかもが、何時も通り。 隠し事が苦手で、すぐに赤くなってしまう私に隠し事なんてできるはずもないと思っていた。 でも、今までもすぐに赤くなったり、隠し事が苦手だったのだ。逆に気づかれてはいないと思う。 「私が・・・こなたを・・・か」 口に出して思うことといえば、どこが好きなんだろう。どうして好きになってしまったんだろう。そんなことばかりだ。 あの夢が現実だったら、もっと甘い口付けだったのだろうか。 しかし、所詮は夢だ。大粒の涙を零しながら、重ねられたこなたの唇は、温かいのに悲しくて、胸が締め付けられて、そして何よりすごくしょっぱかった。 「いい加減、眠らないと治るものも治らないわね」 それはわかっているけれど、目を閉じると、あの胸を締め付けるようなこなたの顔が頭に浮かんできてしまって眠ることができなかった。 それでもそろそろ、そんな抵抗も終わりだ。体力の限界もあるし、薬が効いてきているのもある。頭がぼぉーっとして、もやがかかった様にこなたの顔も隠れてしまう。 願わくば、夢なのだから涙味の口付けではなくて、もっと幸せな、現実ではありえなくても夢の中くらい幸せな世界を望むわ。 しかし、私が見る夢は、そう明るくはならないらしい。 私の目の前には、ライトパープルの毛並みをしたウサギと、青色の毛並みで一房アンテナみたいに頭に癖っ毛を生やした子狐がいた。 そのウサギの想いはたった一つだった。寂しげな表情を浮かべて、寂しげになく子狐の傍にいてあげたいと。 だが、誰かがウサギに告げるのだ。所詮、ウサギはウサギ、子狐は子狐。種族相容れない者が共にいようなどと馬鹿げた事だと。 ウサギが傍にいたところで子狐の群れの仲間に食われてしまうだけだと。それが自然の摂理だと告げるのだ。 ウサギがどんなに想いっても、隣にいる子狐にその想い届かない。ほんの数センチ隣にいるのに、地の果てよりも遠かった。 ウサギは思うのだ。全てを投げ打ってでも子狐の傍にいてあげたいと。 だが、子狐がそれを何時望んだのか。そもそも、望んでなどいないのだ。ただのウサギの思い込みに過ぎなかっただけ。 叶わぬ思いは報いとなってやってくる。 子狐の群れの中にウサギは捕まり食べられてしまう。それを子狐は、悲しそうに見つめているだけだ。 そんな悲しい夢。目を覚ますと、私は泣いていた。言葉では言い表せないごちゃごちゃになってしまった想い、誰にも言えない想い。 「かがみ、どうしたの?」 何時からか、傍にいてくれたらしい母に私は思わず、すがりつく。 この涙が、あの青空を隠して灰色の空に変えてしまえばいいのに。 この涙が、ウサギの想いの全てを溶かして流してしまえばいいのに。 私は、また、母の胸に顔をうずめて涙が枯れるまで泣いた。 母は、そんな私の体を優しく抱き締めてくれた。 「もっと甘えてくれていいのよ?かがみ。貴女はしっかりしすぎているところがあるからお母さん、心配なのよ・・・」 甘えることはできても、胸の内を話すことはできなかった、怖かったから・・・。 母の胸の中は温かくて、私の心の中は涙の洪水で冷え切っていた。 何気ない日々:膝を抱え込むように悩むよりも相談する決意を(かがみ編)へ コメントフォーム 名前 コメント (/ _ ; )b -- 名無しさん (2023-06-28 06 45 36) ホント読者の心をつかんで離さない作品ですねこれは!! 続編楽しみに待ってます。 -- kk (2009-02-11 21 12 33) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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【第13話 移植】 コミケ参加サークルの抽選結果がとどき、同人イベント板が異様な空気に包まれる頃……。 癌研有明病院の無菌病棟のとある一室もまた異様な空気だった。 上半身だけ起きているこなたの周りを、白衣にガウン、巨大マスク、帽子で目しか地肌が見えない完全フル装備の医師団が取り囲んでいる。 無菌室の面会用窓の外で、かがみ、つかさやそうじろうやゆい姉さん、ゆたかが見守っている。 中のこなたとは備え付けの専用電話で会話できる。 「つかさ、ほら、よくみるんだよ」と受話器を耳に当てるこなた。 「う、うん……緊張するね」とつかさ。 「ほら、あれが移植されるんだよ。医学部の授業で出るからよーく記憶にとどめておくんだよ」 医師団の中の一人の看護師が、手のひら2つ分のサイズの赤いドロッとした液体の入ったパックを掲げている。 シールの上にマジックで「泉こなた」と名前が書いてある あれが、こなたの新しい命。 「つかさ、琉球大学行ってもサンゴ礁の海でイリオモテヤマネコと遊んでちゃだめだよ。医学部は入ってからが本番なんだよ。たくさん勉強しまくってえらくなってここにいる人たちみたいになるんだよ」 「う、うん。こなちゃん、私絶対居眠りしないでがんばるよ!」 こなたはつかさを先生のような口調でさとし、つかさはそれに応える。まるで師弟……? 「あ、そうだ私まだ受験前だ……えへへ」 そしてこなたの「命」は、静かに点滴台につながれる。 緊張する空気が一斉に走る。 午前10時00分 「複数臍帯血移植」開始。 栓が外される。 真っ赤な臍帯血がチューブを走る。スルスルと生き物のようにこなたに向かう。 鎖骨下の針から心臓近くの太い血管へ駆け込んでいく。 フル装備の医師団は、何も言わずに見つめ続ける。記録係の看護師だけがひたすらペンを走らせている。 こなたも、面会用廊下のかがみたちも見つめ続ける。 つかさに至っては窓にへばりついている。 完全密閉の分厚い三重窓を通してビッグサイトも見ている。 「お姉ちゃんがんばって……」とゆたかは必死に励ます。 「うん、今のところ大丈夫」 ゆたかは臍帯血パックを感動しながら指差す。 「見て、きれいな赤い色だね、あれが命の色っていうんだね……」 キラキラした眼差しで見つめ…… 見る見るうちにパックはカラッポになっていく。 「……え、あ、あれ?終わるの?これでおしまい??」 「えっ!!まだ涙も流してないのに……」とゆい姉さんはあわてる。 午前10時10分 「複数臍帯血移植」終了。 数枚写真を撮った後、ものものしい数の医師団はあっさりと無菌室から出て詰所へ去っていく。 あとに残されたのは呆然としているこなたたち。 「……なんかさ」 その空気に耐えられなくなったのか、こなたは言葉を発する。 「……すごい、地味だよね」 「う、うん……」とつかさ 「そ、そうかな、お、お姉さんは感動だよ」 「よよくわかんない……」 おろおろするゆたか。 「医療マンガの主人公がみんな外科医って、当然だよね。ワンパターンでマンネリだなって思ってたけど……これじゃしょうがないよね」 こなたはかがみに話を振る。 「もし私が心臓移植だったらもっと盛り上がっただろうねー♪10時間とかやるらしいし。はやくバチスタを!とかいったり、動け!!心臓!!動くんだ!!とかいったり。幼女が手術の助手したりして萌え要素もありじゃん。かがみなんか、手術室の前で泣きまくるだろうね♪死なないで!とか、無事終わってよかった!!とかいってさ♪」 「無事終わってよかった……」 かがみはこなたを見つめながら涙を流していた 「よかった、よかった……死ななくて、よかった……ほんとうに、よか……った……」 かがみはその場にしゃがみこんだ。 つかさがいるにもかかわらず、子供のようにわーっと泣き出した。 そうじろうもしゃがんで泣いている。 静かな廊下に二人の大きな嗚咽が響く。 それをみて、つかさもゆたかもゆい姉さんも顔を手で押さえた。 防音構造で声が伝わらないこなたも、その姿を見て目頭を押さえる。 三重窓の向こうのビッグサイトと東京湾を見つめた。 「76から行けるかな……」 小さくつぶやく 「6月のオンリーにも行きたいな、サンクリにも……」 こなたの目には、ここから見えないはずの都産貿やサンシャインシティなども見えていた。 「絶対、かがみんと一緒に行くんだ……」 その日の夜、こなたは口に痛みを覚えるようになった。 今までよりずっと激しい副作用が、ようやく今やって来たのだ。 【非常に鬱なシーンにつき注意】 「……!!」「……!!」 防音窓の向こうで声は聞こえない。何かをさけんでいる。かがみは受話器でこなたに呼びかける。 こなたは枕もとの受話器すら取れない。猛烈な口内炎を起こし「……!!」と声をあげるたびに口元を押さえている。 ちょっと口をあけるだけでも針山を突っ込まれたような痛みが走っている。 5分に1回、昼夜関係なく上から下から出す。ベッドサイドにあるトイレにも間に合わず、ポータブルの便器をベッドに持ち込む。 。制吐剤も下痢止めも効かない。 口をあけると激痛が走るにもかかわらず、口を大きく開く。叫び声を上げる。そのたびに針で刺されたように背中をのけぞらせる。 こなたの手には苦痛緩和用のモルヒネの注入ポンプのスイッチが握られている。 苦痛が激しいときはスイッチを押せばモルヒネが流れこみ、緩和されるのだが、中毒を防ぐために一日3回しか使えない設定になっている。 こなたは苦痛のあまり、夜明け前にすでに3回分押してしまっていた。 「……!!」 こなたは泣けなかった。 涙がこぼれるたびに激痛が走るからだ。目を押さえ、顔をボンボンと枕にぶつける。涙に血が混じっている。 激しい結膜炎を起こしているのだ。 ベッドサイドのペンとノートに力なく手を伸ばし、途中でエチケット袋に嘔吐しながら、震える手でつかんで、文字を書いてかがみに示す ”かがみ わたし みぐるしいでしょ” 弱弱しくほとんど判別できない字を見せる。 かがみはすぐにメモ帳に返事を書いた。 ”全然見苦しくない” こなたは20分かけて返事を書く。 だが、その字は判読不能だった。 かがみ”私がついてるから大丈夫”と書いた。 こなたは笑おうとした……が、口元を動かすたびに激しい痛みが走るのだった。 真夜中。 突然、こなたの全身に激しい悪寒が走る。 何がおきたのか分からないこなた。 人気のない真っ暗な無菌室。医療機器の小さなランプだけが星のように点っている。 なのになぜか、部屋一面にキラキラとまばゆい光が舞っている。 誰かがいる気配を感じる。 (……お母さん?) 光は真っ白な人影となり、かつて見たかなたの姿に変わる。 こなたにゆっくり手をさしのべる。 (ちょっと待って、かがみが、コミケが……) すっと伸びたその手が、こなたの肩に触れる。 その瞬間、背中を走る猛烈な痺れ。強烈な短い周期の痙攣。体が誰かに操られているよう……。 遠のく五感。薄れ行く意識。 ガクガクと震える指で、こなたはひたすらナースコールを押した。 第14話:壊れた人形へ続く コメントフォーム 名前 コメント このまま鬱で終わっちゃ嫌だぁ〜〜〜(T◇T) 逆転を!奇跡の逆転をぷり〜〜〜ず! -- にゃあ (2008-10-01 19 44 55) 大丈夫だよね・・・? かがみがきっと、こっちの世界に連れ戻してくれるよ!!!( _ ) -- チハヤ (2008-10-01 16 29 51) こなたしんじゃあいやぁああああああああああああああああああああ 作者のハッピーエンドに期待 -- 名無しさん (2008-10-01 02 14 13)
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さてはて、1月初旬と言えば、高校3年生にとってはセンター試験を間近に控えた時期であり、寸暇を惜しみ、寝食を蔑ろにしても勉学に励むことを義務付けられた悪夢のような年明けである。 勿論、有数の進学校である陵桜学園も例外ではなく、生徒、教師を問わずに試験対策に、塾、特別講義と走り回らねばならない。 故に、3年生のクラスは阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた……訳ではなく、実際の高校生は割合気楽なもので、それこそ首都圏にある、日本名物の赤門を潜ろうとでも企んでいない限りは、普段とたいして変わらない。 学力に応じた所には入れればそれでいいさ。 さて、この物語の主人公である4人組も、一人を除いて、割と真面目に進路を考えてはいるが、何も昼休みまで勉強すること無いだろうと、授業開始までの休み時間、雑談に終始していた。 そして、その真面目に進路を考えていない一人、泉こなたの発言が、今回の物語の切欠となったわけである。 「あ~、この時期って、センターや入試で勉強ばっかで嫌になるよね~」 そう言って机に突っ伏すこなた。その表情は完全にだらけきっており、言葉通りの緊張感など、微塵も感じさせない。 「そういうことは、真面目に勉強してる奴が言いなさいよ」 と、こなたの台詞にツッコミを入れるのは柊かがみ。この二人は傍目からも仲が良すぎるほどの親友で、仲の良さから生まれたある感情が、冬休みと、始業式の日ににちょっとした事件を引き起こしたのだが、ここでは割愛させていただく。 「でもさ、勉強勉強って、周りが言うじゃん?そういうの聞くとさ、却ってやりたくなくなるんだよ」 「まぁ、分からなくは無いけどね。家でも母さんや姉さん達が勉強してるかって、うるさいの何の。ちゃんとしてるっていうのに」 「でしょ?あ~、こんな環境じゃ勉強できないよ~」 さて、こういった発言は、勉強をしたくない人間が言う、所謂言い訳。自分のやる気のなさを他の要因に求める、逃げの一手。 だが、この逃げの一手を、その言葉尻を捉えて、自らの望む結果へと繋ぐことが出来る程頭の切れる人間が、ここにいた。 その名は高良みゆき。成績は学年トップクラス、運動も出来る、容姿端麗、ドジッ娘属性(こなた談)を持つ、隙の無い、まさに完璧超人だ。 そして、そのみゆきは、こなたの言葉を聞いて、こう会話を繋げた。 「確かに、今は色々と騒がしい時期ですからね。そうですね、もし、よろしければ今度の連休にでも、気分転換をかねて、遠出をして、勉強をするというのはどうでしょう?」 「えっ、どこに行くの?」 その言葉に反応したのは柊つかさ。かがみの双子の妹で、こちらも天然(こなた談) 専門に学校に行くつもりなのに、わざわざセンター試験を全科目受験するという、ドジッぷりを発揮して、姉であるかがみ他、担任の黒井ななこを呆れさせている。 つかさの疑問に、みゆきはこう答えた。 「みなみさんのお宅には別荘があるのですが、そこを借りて勉強合宿をするというのはいかがでしょう?」 ここで言うみなみとは岩崎みなみ。みゆきの家の近所に住み、姉妹同然の付き合いをしている。ちなみに、ものすごい金持ち。 さて、高校生が集まって勉強合宿なんて開いても、当然その目的から脱線するのは日の目を見るより明らかだ。 特に、こなたがいる限り勉強という趣旨はマッガーレ、という状態になるだろう。 だが、それを分かっていながらみゆきが提案したのには意味がある。こなたとかがみ、二人は親友だが、同時に互いに恋心を抱いている。そして本人達には自覚が無いときたもんだ。 第3者が後押しをしなければ、互いの気持ちに気が付くことは無いだろう。 だが、同性愛という壁が立ちはだかっている以上、そのまま「お二人は相思相愛です」なんて言うことは、どこかで他人に甘えることを生み、関係に歪みを作る。 故に、みゆきは切欠を与えることのみで、二人には自らの意思で壁を越えてもらおうと考えた。そして、環境を変えての泊り込み、これは良いチャンスになると考えたのだ。 「いいね!やろうやろう!!」 みゆきの提案に、真っ先に食いついたのはこなただった。つかさも、そしてかがみも割りと乗り気な顔をしている。 手応えあり、か。みゆきはとりあえず上手くいったことにふう、と溜息をついた。 「珍しいわね、みゆきが溜息をつくなんて?」 こなたに完璧超人と言わしめるみゆきが溜息をつくとは。かがみは興味本位で、軽いノリで聞いてみた。と、みゆきは、 「ええ、勉強が忙しいというのもありますが、最近、ある人達がお互いの気持ちに中々気が付かないのが歯痒くて」 「ふ~ん。それって、誰のこと?」 かがみが聞くと、みゆきは微かに目を細めながら薄く微笑み、 「さて?誰が、誰に、誰の事を気にしているのでしょうね」 とだけ答え、前髪を指で爪弾いた。 さて、その日の帰り道。冬の夕暮れは早く、例えば学校を4時に出たとしても、既に天の6割は茜色に染まっている。 更に言えば、寒い。そんな時にわざわざ外出しようなんて思う人間は、夕方の特売狙いの奥様方か、学校帰りの学生が殆どではないだろうか。 故に、道に人影などなく、こなたとかがみの影だけが長く長く、舗装された道路に伸びていた。 「いやぁ、二人だけで帰るのなんて久しぶりだね~」 そう言ったのはこなた。それを聞いてかがみも、 「そうね、冬休みは殆ど会わなかったし、最近は進路相談やら補習やらで忙しかったからね」 と、頷く。つかさとみゆきはかがみが言った通り、みゆきは進路相談、つかさは補習に引っ掛っていた。 こなたも成績で言えば、補習に引っ掛りそうなものだが、どうやってすり抜けたのか、かがみは微妙に怪しんでたりするのだが、一緒に下校する、という状況がその疑問を掻き消す心の高揚を生み出していた。 「しかし、みゆきがあんな事を言い出すなんてね」 みゆきの勉強合宿提案は意外だった。だが、根を詰めすぎると良くないのも事実。やはりみゆきは深いな、とかがみは思う。 「そだね~。ま、みゆきさんも遊びたいんじゃないかな」 「あんたと一緒にするな!」 と言っても、流石にこの時期にグッズを買いに行かない辺り、こなたも常識を弁えているのだが、ツッコまずにはいられない。 ふと、一陣の風が吹き抜けた。陵桜には指定のコートがあるが、着ていても寒いものは、寒い。 「ぶへぇっくしょぉい!!」 盛大にくしゃみをするこなた。その後、体をブルっと震わせると「お~、寒」と呟いた。 そんなこなたの前に、差し出されるものがある。化学反応によって熱を帯び、携帯することで体を温める、所謂、 「はい、ホッカイロ」 「ふぇ?」 「この時期に風邪引いたらやばいでしょ?体調管理はしっかりしなさいよ」 そう言ってかがみは、こなたの手に懐炉を握らせた。 ――あ、まただ。 こなたは、思う。何だろう、この気持ちは?かがみといると、胸がもやもやして、でも甘酸っぱくて、キュウってなって、それでも、嫌じゃない。この気持ちは……。 ――ブルルルル。 突然のバイブ音に、こなたはハッと我に帰る。見れば、かがみが携帯を開いている所だった。 「あ~、つかさからだわ」 そう言って、返事を打ち始めるかがみ。その携帯には、以前、こなたがあげた、ストラップが付いている。 いいもの見つけた。こなたは、にやぁ、と口を歪めると、 「それって、私があげたストラップだよね?ちゃんと付けてるんだ」 と言った。聞いたかがみは、ビクッとしたが、 「あ、あの時大事にするって、言ったじゃない。だ、だからよ。こなたは、付けてるの?」 「モチのロンロン。じゃ~ん!!」 取り出した携帯、しっかりと付いている。二人で一つのストラップ。 さてはて、こなたとかがみの顔が赤いのは夕暮れのせいか、寒さのせいか……それとも別の要因か。 長く長く伸びた影は、日の加減で重なって、見えた。 1月11日へ続く コメントフォーム 名前 コメント
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「かがみー、勉強教えてくれない?」 「あら、珍しいわね。テストが近いわけでもないのに、こなたが勉強しようと思うなんて」 「でもはら、私たちももう受験生なんだから、そろそろ勉学に励まないと、って思うんだよね」 「へえ、やっとやる気を出したのね。もしかして、志望校とかも決めたの?」 「ううん、一応勉強しておいたら、大学の選択肢が広がるんじゃないかと思ってね」 「またそんな適当な目標を掲げて、すぐにやめちゃうんじゃないの?」 「大丈夫だって。じゃあ、明日かがみの家に行くから。明日は土曜日だし、宿題もいっぱいあるしね」 「ちょっとこなた、あんた宿題を処理するのが目的じゃないでしょうね」 「そんなことないって。ところでかがみ様。私めに数学の教科書を貸していただければ非常に有り難いのですが……」 「別にいいけど、あんた置き勉してるんじゃなかった?」 「この前持って帰ったんだよ。普段時間割なんてしないから忘れちゃって」 「ふーん、今度からはちゃんと持ってきなさいよ。はい。あ、でも次の次が数学だから休み時間になったらすぐ返してよね」 「分かってる分かってる。ありがとう、かがみ」 こなたは小走りで教室を出て行った。 それにしても、教科書を持って帰ったってことは、こなたも少しは勉強する気になったのだろうか。 柊家 「あ、そういえばつかさ、明日こなたが家に来て勉強する予定なんだけど、つかさも用事が無いなら一緒にやらない?」 「え、そうなの? でも明日私、ゆきちゃんにバルサミコ酢を使った料理を教えてもらうつもりなの。ごめんね」 「別に謝ること無いのよ。うーん、そうなると、明日はこなたと二人きりか。マンツーマンで勉強を叩き込んでやろうかしら」 土曜日になった。昨日早く起こしてと頼まれていたので、つかさを叩き起こす。つかさは寝ぼけ眼で出かける準備をして、九時半には家を出てみゆきの家に行った。 現在時刻は十時過ぎ。こなたはまだ来ない。 そういえば、こなたは何時に行くなんて具体的なことは言ってなかった気がする。もしかしたら、まだ寝ているのかもしれない。 こなたに限って約束を破るなんてことは無いだろうが、早く来て欲しい。 人間、友人が家に来る直前は、何も手につかないと思う。結局勉強も読書も何もせず、そわそわと部屋中を動き回っていた。 チャイムがようやく鳴った。やっと来たかと思いながら玄関に行く。 「やぁかがみ。外は暑いねー。砂漠で体力が減る理由が分かった気がするよ」 「こなた、遅かったわね。今まで何してたのよ。寝てたの?」 「そんなことないって。ちゃんと九時には起きてたよ。でもあんまり暑いからコンビニでずっと涼んでたんだよね」 「あんたねえ、人を待たせてるんだから、さっさと来なさいよ」 「いや~、ごめん。でもかがみなら、ずっと待っててくれると思うから、ついつい寄り道しちゃうんだよね」 「な、何言ってるのよ。まあ、とにかく上がって。冷房入れてるから」 「え、ほんと? やったー」 こなたは颯爽と部屋に向かって駆けていった。 「はぁ、現金な奴ね……」 テーブルを囲んで向かい合うように座る。 しばらくは黙って勉強を続けた。 私は集中してやっていたが、こなたは何度もテーブルに顔をうずめたり、後ろに倒れこんだりしていた。 「かがみんかがみん、宿題終わってるの?」 「え? ええ、終わってるわよ」 「じゃあ、答え写すからちょっと見せて」 「こなた、宿題くらい自分でやりなさいよ。勉強しないといけないとか言ってたのはあんたじゃない」 「でも宿題って、なんか無理矢理やらされてる感があってやる気が出ないんだよね。ゲームでもお使い要素が多いと萎えてくるし、やっぱり自主的にやるのが一番なんだよ」 「まあ、確かにあんたの言うことは分かるけど、もう高三なんだから、屁理屈ばかり言ってやらなかったら、将来後悔するわよ」 「今度からはちゃんとやるから、今日だけ貸してよ~」 「あんたのために言ってあげてるのよ。とにかく、絶対に貸さないからね」 「かがみんのいじわるー。私の頭じゃ全然わかんないんだよぉ。う~~~」 こなたはテーブルに顎を載せてうなり始めた。 それを見てると、自然と笑みがこぼれてくる。 「あー、もう分かったわよ。私が教えてあげるから。でもちゃんと、自分の力で解くのよ」 「ほんと? いやー、かがみんは優しいなー」 こなたはすぐに体を起こして喜んだ。私の言葉で一喜一憂しているのは、見ていてなんだか楽しい。 それにしても、よく恥ずかしげもなく優しいなんて言えるものだ。私には到底無理なことだろう。 「ねえねえかがみ、これはどうすればいいの?」 「どれどれ、ちょっと貸して。あー、これね。これはこうして、ここをこうすれば簡単に解けるわよ」 「おぉ、さすがかがみん。伊達に努力してるわけじゃないねー」 「な、そんなことより早く教えてあげた問題やりなさいよ。自分でやらないと何の意味もないわよ」 「かがみん照れてるねー。さすがツンデレ」 「ああ、もう。馬鹿なこと言ってないでさっさとやりなさい」 そういえば、こなたはツンデレという性格をどう思ってるんだろう。 だらだらと問題を解いているこなたを見ながら、ふとそんな疑問が浮かんできた。 何考えてるんだろ、私は。 変な感覚を打ち払うように、目の前の問題に集中した。 「そういえばさ、最近大学に入る女子が増えてるせいで、結婚する年齢が上がってるらしいね」 「へえ、そういうことは覚えてるのね。……ところでこなた。あんた、結婚する気はあるの?」 「いきなり凄い質問をしてくるね……。 まあ、私は結婚しないというか、出来ないと思うよ」 「なんでそんな自虐ネタに走るのよ。こなたなら、その、結構モテるんじゃないの?」 「あー、よくいるよね。お互いを褒めあって安心する女子って」 「そんなんじゃないって。こなたは本当にモテると思うわよ。コスプレ喫茶でバイトもしてるんでしょ」 「まあ、そういう趣味の人には好かれるかもしれないけどね。それがモテるに直結するわけじゃないよ。それで、かがみんは将来結婚するつもりなの?」 「え? わ、私はそんなつもりないわよ」 「あれ? かがみ、男がいるんじゃなかったっけ?」 「それはあんたの勘違いでしょ。いるわけないじゃない」 「そんなに必死に否定するから怪しまれるんだよ。何か隠してるんじゃないの?」 「な、何も隠してないって。そんな無駄話より、さっさと勉強再開するわよ」 「……は~い」 私には男なんていないし、別に好きな人もいない。でも何故か、こなたに核心をつかれている気がする。 自分で自分がわからない。そんな感じだ。 今こなたは、両手で頭を抱えながら、問題とにらめっこをしている。口をへの字に曲げて、考え込んでいるようだ。 一度ため息をつく。こなたの観察ばかりしすぎだ。集中力が足りない。 脳裏にこなたの言葉が蘇る。 結婚はしない、出来ない、か。それを聞いて私は、残念がったのだろうか。それとも、喜んだのだろうか。分からなかった。 もう、自分で分かるのは手元にある数学の問題だけだ。しかし、今はそれすら手につかない。 こなたが突然四足歩行でテーブルの反対側にいる私のほうに歩いてきた。 「かがみん、これどうやるの?」 「ん? どうしたのよこなた。こっちにこなくても、教えてあげるのに」 「いや~、いちいちかがみに見せて、教えてもらってからやるより、同時にやったほうが早いと思ってね」 こなたがすぐ隣に座る。普通にしていても肌が触れ合いそうな距離だ。ここまで接近したのは初めてかもしれない。 シャーペンを握った手が震えている。こなたに勉強を教えようということに緊張しているのだろう。 どうやって教えたのかは覚えていない。しかし、こなたのノートにはきちんと回答が書かれていた。 「はー、これでようやく宿題が終わったよ。ありがとう、かがみ」 こなたの体が、右へと倒れる。私の膝の上に、こなたの頭が乗った。 「な、こ、こなた。いきなり何するのよ。びっくりするじゃない」 「ちょっと今日は5時までゲームしてたから、眠いんだよね。ちょうど一段落ついたし、一時間くらい経ったら起こしてよ」 「あんたまさか宿題だけして帰るつもりじゃないでしょうね」 返事は来なかった。よっぽど眠かったのだろう、くーくーと小さな寝息を立てている。 しかし、5時まで起きていたということは、こなたは4時間しか寝ていないということになる。 次の日のことくらい、考えておけばいいのに。 でも、眠いのを我慢してきてくれたのかと思うと、少し嬉しくなる。 独りになったのだから勉強に集中しようと思うが、どうしてもこなたのことが気になる。 正座した膝の上にこなたが頭を乗せているのだから、仕方がない。下手に脚を動かせば、落ちて頭を打つかもしれない。 シャーペンをテーブルに置いて、体を後ろに傾けた。両手で体を支える。 こなたは上を向いた姿勢で眠っている。 閉じられた目と、弾力のありそうな頬、柔らかそうな唇。今のこなたは本当に無防備だ。 ……っ、私は何を考えて……。 平常心を取り戻すために、一度深呼吸をする。 こなたはだらしなく両腕を左右に広げていた。今、目の前にはこなたの左手がある。 手を繋いだことはあっただろうか。 無意識のうちに両手がこなたの左手に伸びた。考える時間なんてなかった。 両手で包み込む。ほのかな温かみが手に伝わってくる。 しかし同時に自責の念に駆られる。寝ているこなたの手を触るなんて、どうかしている。 こなたは私を信用して体を預けてきているのに、それを裏切ったのではないだろうか。 でも、自分の気持ちを抑えることが出来ない。心臓が激しく脈打っている。体が火照ってくるのが分かる。 私とこなたの二人だけの空間。そしてこなたは眠りこけている。 触っていた左腕をゆっくりと床に戻す。 ゆっくりと、こなたの髪を撫でた。さらさらとしていて、くすぐったいくらいだ。 しばらくその長くて綺麗な髪を弄っていた。滑らかで、気持ちがいい。 こなたの寝顔を見る。口元は緩み、幸せそうな表情をしていた。つられるように笑みがこぼれる。 なんて言えばいいんだろう。こなたは、本当に可愛い。 震える手を、少しずつ顔に近づける。 人差し指で、優しく頬を押してみた。 ぷにっ 「ん~……」 「あ……」 こなたがそれに驚いたのか少し体を動かした。だが、まだまだ起きる気配はない。 ぽよぽよしていて、見たとおり弾力があった。柔らかい手触りだ。 「うぅぅ……」 こなたは私の指を避けるように、テーブルの方を向いて寝返った。 膝の傾斜で滑り落ちそうになったので、また仰向けになるように手前に寄せて向きを変える。 深呼吸を、ひとつ。 こなたを見下ろす。目は覚めていないようだ。あまりにも気持ちが良くて、我を忘れてしまっていた。 こなたの唇は、今むにゃむにゃと波打っている。 動悸が素早くなるのに合わせて、呼吸も荒くなってくる。 落ち着かせるように、ゆっくりと息を吐き、一気に吸い込んだ。 こなたの唇に、自分の唇を重ねる。 柔らかくて、温かくて、なんだか甘い感じがする。 「ん………」 今、私はこなたとキスをしてるんだ。これが、こなたの唇の感触なんだ。あぁ、こなた、こなた、こなた……。 「ん~、ん」 こなたが少し声を上げた。驚いて目を開ける。 目が合った。 「あ、こ、こ、こなた。お、起きてたの?」 慌てて顔を上げるが、もう手遅れだった。 「かがみ……私にキスしてた?」 「い、いや、その、それは……。ご、ごめんこなた。その、こなた見てたら思わず……。ほんとにごめん」 あー、私こなたに嫌われたかな。寝てる間にキスするなんて、最悪だ。 「……そんなに謝らなくてもいいよ」 「……ごめんね。私って最悪な人間だわ。こなたのことなんて考えずに……」 もうこなたと顔を合わせることも出来なかった。俯いた視線を横にずらす。 いきなり、首に温かい感触がきた。こなたが後ろから抱き付いてる。 すぐ横に、こなたの顔がある。 「大丈夫だよ、かがみ」 「え?」 「私は平気だよ。だから、自分を責めないで」 「どうして? あんなことされたら、普通……」 「私ね。……かがみのこと……、好きだよ」 時が止まったような、そんな気がする。 しばらく、どういう意味か分からなかった。思考がフリーズする。 ゆっくりと、言葉を理解していく。 ああ、そうか。こなたも……。 でも、こなたは私よりずっと正直で、純粋だ。 それに比べて、私はずるいな。 今までずっと、抑え込もうとしていた。隠れたところでこそこそやるだけだった。 ほんの少しだけでも、自分に正直に…… 「ねぇ、こなた」 次の言葉が喉に引っかかって出てこない。早く言えばいいのに、声が出ない。 こなたは何も言わない。ただ、私をきつく抱きしめてくれた。 温かいな……。 「あ、あのね……。私……」 もう一息。私は、こなたが好きだったんだ。 ようやく分かった。今まで自分に嘘をついて、心のどこかにしまいこんでいた気持ちが。 ゆっくりと外に出る。 「私も、こなたのことが、す……、す、す、好き」 ああ。真っ白だ。 「あはは、かがみん顔真っ赤だね」 「な……」 「まあ、かがみは素直じゃないから、すごく言いづらいよね。……ありがとう。嬉しいよ、私。 ……それにしても、口と違って体は正直と言うか」 「そ、それは……」 何も言い返せない。でも、そんなのどうでもよかった。 とにかく、嬉しかった。 「かがみも結構大胆だよね~。奥手かと思って……はむっ!」 こなたに抱きついて、そのまま床に倒れこんだ。 また、こなたにキスをする。 ゆっくりと、こなたの口の中に舌を入れた。 こなたの舌と絡めあう。ゆっくりと、優しく触れていく。 「う……」 唾液と唾液が交じり合う。 これで、こなたと一つになれたような気がする。 こなたは目を瞑って震えている。 それでも、私を受け入れてくれている。 こなた……、ずっと一緒だよ。 何分経っただろうか。時間の感覚が分からなくなっている。 息苦しさを覚えて、唇を離した。 「うぅぅ……。かがみぃ、苦しいよぉ……」 こなたは仰向けのまま動かない。息が荒くなっていた。 「こなた、ごめん。大丈夫だった?」 「なんだか、わけが分かんないよぉ。すごく、変な気持ち……」 こなたの隣で同じように横になる。 両手で抱きしめて、引き寄せる。 「かがみ……?」 「こなた、あのね……」 言いたい事はいっぱいあった。何から言っていけばいいのかも、分からないくらいに。 でも、もう言葉なんて要らないかな。 もう一度、強くこなたを抱きしめる。 こなたも、私をきつく抱きしめてくれる。 わたしとこなたの、二人だけの時間が始まる。 コメントフォーム 名前 コメント GJ! -- 名無しさん (2022-12-15 03 15 56) ↓慣れればかえって一人のが楽だぜ…寂しいことに変わりはないが。 -- 名無しさん (2013-02-15 15 18 38) あああああ、ここにいるみんなにバレてるよ、かがみん -- ぷにゃねこ (2013-02-07 19 07 43) ↓俺がこんなに!? -- 名無しさん (2012-12-21 11 16 52) フラグ来た……!? -- かがみんラブ (2012-09-23 14 42 10) ↓ 本人乙ww ぼっち残念ww -- 名無しさん (2010-09-21 18 53 57) ↓貴様らとは美味い酒が呑めそうだ。 -- 名無しさん (2010-09-16 12 35 15) ↓おまえらもかブルータス -- ちんぽっぽ (2010-09-13 21 24 36) ↓おぉ我が兄弟よ、お互い辛いのぉ -- 春我部 (2010-04-15 01 21 06) ↓泣くな同志よ -- 名無しさん (2010-04-14 15 52 44) 二人だけの時間が始まる、か…。 俺は一人だけの時間が終わって欲しいぜ。 -- 名無しさん (2009-12-05 23 19 22)
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「ふとしたことで~告白~」 あの後、風邪を拗らせて本格的に熱を出した私は、土日の連休を挟んで、一週間近くも学校を休む事になってしまった。 …でも、私にとってはそっちの方が良かったのかもしれない。 ――あんたとはもう絶交よ――。 こんな事を言われた以上、私はかがみに合わす顔が見つからなかった。 ちゃんと謝れば許してくれるかもしれない…。 そんな考えも、あの時のかがみを見ていれば、あの事を本気で怒っていて、簡単にそれを水に流してくれるとは思えないのは分かっている。 何より、仮にかがみが私の謝罪を受け入れてくれたとして、私達はそれまでのような友情関係に戻れるのだろうか? …ありえない。 どれだけ関係の修復に奔走したとしても、私がかがみのファーストキスを奪ってしまったという事実は一生消えない。 その上、もう私があんな暴走をしないなんて保障はどこにもない。 もしも、また同じような過ちを繰り返してしまえば、今度こそ私達の関係は終わる。完全に断絶してしまうだろう。 いっその事、このまま私のこの想いをかがみに伝えてしまおうかとさえ考える。 …でも、それも出来ない。 彼という存在が居る以上、私の恋が成就する可能性はゼロに違いない。 挙句の果てには、私が同性愛者だという事を知ったかがみや周りの人達が、好奇や侮蔑の視線で私を見るようになるかもしれない…。 …じゃあ、私はどうしたら良いんだよ…。 これじゃあ、何をしたってバッドエンド一直線じゃないか…。 そうなって当然の間違いを犯したのだから、自業自得でしかないのに…。 覆水盆に返らず。 そんなことわざの意味を改めて噛み締めても、私の後悔は消えてくれはしなかった。 § 月曜日。 風邪もすっかり完治してしまった私は、いよいよ学校に行く事になる。 でも、まだ私はかがみに会いたくない。 会ってしまえば、その瞬間に何もかもが終わってしまう気がして仕方が無かったのだ。 だから、いつも通りの時間に家を出たのにも関わらず、私は乗る電車をわざと一本遅らせた。 そして、朝のHRが終わる寸前に教室の中へ駆け込んで、私が遅刻した事に対する黒井先生の軽いお説教に平謝りしながら、無事に自分の席に着いたのだった。 HRが終わると、つかさが私の席に近づいて来た。 自然と自分の表情が強張っていくのが分かる。 「こなちゃん、風邪の方は治ったの?」 「え…。あ、うん。もう完全復活だよ」 「そうなんだ、ちゃんと治って良かったね~。土日にお見舞いに行こうかと思ってたんだけど、お姉ちゃんはデートだったし、私は金曜日に英語の宿題がどっさりと出ちゃって、それをやるだけで連休が終わっちゃって、行く事が出来なかったんだよ~。だから、ごめんね」 「う、うん。ま、まぁ、その頃にはほぼ完治してたから、お見舞いに来て貰う程でも無かったんだけどね…」 このつかさの様子を見ると、どうやらかがみはあの事を誰にも告げていないようだ…。 私はそれに気付いて、少し安堵する。 …って、英語の宿題!? 「つ、つかさ、英語の宿題って何が出たの?」 「えっ? いつも出てくる、次の授業で出てくる英単語の語訳と、その単語をそれぞれ10回ずつ書いて練習するプリントを貰ったんだけど…。机の中に入ってない?」 慌てて机の中を穿り出すと、それらしきプリントが出てきた。 そして、その提出日は今日の二時間目…。 一時間目は先生の目を誤魔化しながら、単語10回ずつを光速の勢いで書けば、ギリギリいけそうだけど、英単語の訳は誰かに見せてもらわないと明らかにマニア移送(←敢えて誤変換)にない。 あの先生、提出物に物凄く煩くて、一枚でも提出が遅れると無茶苦茶評点を下げられるんだよね…。 「うわぁ~、どうしよ~」 思わず、頭を抱え込む私。 「あっ、それならお姉ちゃんのを見せて貰えば良いよ。お姉ちゃんも同じ宿題が出て今日が提出だけど、お姉ちゃんのクラスは英語の授業が午後からだし、今回は事情が事情だし、ちゃんと貸してくれる筈だよ~?」 確かに、風邪で休んでたという大義名分があるから、普段のかがみなら、「もう、仕方ないわね…」と愚痴を言いながらもプリントを貸してくれる事だろう。 ……でも、今は――。 「つかさ…。悪いんだけど、つかさのプリントを見せてくれないかな…?」 「へっ?」 私がそう言うと、つかさはとても驚いた表情を見せた。 「私のは多分間違いが多いと思うから、お姉ちゃんのを借りた方が…」 「い、いや、あの……もう授業も始まっちゃうし、わざわざ隣のクラスに行ってかがみに事情を説明する時間も今は勿体無いというか、なんというか…」 「そっか…。じゃあ、私のプリントを持ってくるね」 「う、うん。ありがとう…」 一旦自分の席に戻っていくつかさの姿を見て、私はホッと胸を撫で下ろした。 …ただ、こうやって、つかさが事情を知らない事に付け込んで、私とかがみの関係に亀裂が入った事を時間稼ぎのように誤魔化そうとしている私自身が、この上なく情けなかった。 ……その後も私は何かと理由を付けて、かがみとの接触を拒み続けた。 朝は遅刻ギリギリの時間に教室に駆け込み、休み時間はかがみがやって来そうな気配がするとトイレに逃げ込んで授業が始まるまで時間を稼ぐ。放課後は用事があるからと告げて急いで帰る。 かがみの方も、きっと私に会いたくないのだろう。 昼休みは自分のクラスで食事をするようになったし、つかさに用事があれば、わざわざメールをして呼び出すようになった。 そんなルーチン・ワークで一日をやり過ごし、学校を出ると、今日も何とか誤魔化し切れた事に安堵する。 …自分でも最低な人間だと思う。 だけど、こうでもしないと、私は一瞬にしてこの大好きだった日常を失ってしまうのだ。 いくら誤魔化しても、もうこの日常にかがみは戻って来ないのに。 そして、その日常も、崩壊は最早時間の問題でしかないのに――。 § その日の放課後も、私はつかさに一緒に帰れないという断りを入れて、急いで学校を離れようとしていた。 「ごめん、つかさ! 私、今日もちょっと急用があって一緒に帰れな――」 「待って、こなちゃん」 その日、私は初めてつかさに呼び止められた。 「…な、なにかな?」 「…話したい事があるんだけど、良いかな?」 「で、でも、私、もう時間が――」 「かがみさんなら、今日はここに来ませんよ」 「っ!?」 私の背後にはみゆきさんの姿があった。 「…ここじゃ話せないから、屋上までついて来てもらって良いかな?」 「……」 これで全てが終わっちゃうんだな……。 観念した私は、静かにそれに頷いた。 § ゲームやアニメでは良く出てくる風景だけれど、このご時世に屋上を自由に出入り出来る学校は、ウチの学校を除いては早々無いと思う。 そんな場所で、私はこれまでに無いほど真剣な面持ちの二人の少女と対峙していた。 「…で、話ってなに?」 「うん。話っていうのはね、こなちゃんとお姉ちゃんの事なんだ」 この瞬間、私の中にあった、もしかしたら予想とは全く違う話題を振ってくるかも…という淡い期待すらも消えてなくなった。 「ここ最近、お姉ちゃんもこなちゃんもお互いの事を避けてるみたいだったから、喧嘩でもしちゃったのかなって思って、お姉ちゃんにこなちゃんと何があったのか聞いたの」 「……」 「…最初は、何も話してくれなかったけど、何度も聞いてる内にやっと昨日になって、お姉ちゃんが事情を全部を話してくれたんだ」 「…そう、だったんだ…」 淡々と話すつかさに、私は掠れた声でそう返答する事しか出来なかった。 「お姉ちゃんね、ファーストキスは好きな人とロマンチックに交わしたいってずっと前から願ってたんだ。…恥ずかしがりやさんだから、ハッキリとその事を口にはしていなかったけど、私には分かるんだよ」 双子の姉妹だからだろうか、つかさの言葉には、その事実に間違いは無いという自信が感じられた。 「お姉ちゃん、キスされた事に凄くショックを受けてた。私にその時の事を話してくれた時も、ずっと悲しそうな表情をして最後まで話してくれたんだ」 「……」 私があの日から知る事の出来なかったかがみの様子をつかさの口から聞かされる。 キスした事に対する罪悪感と、明らかに私が拒絶されている事に対する悲しさとで、胸が張り裂けそうになる。 「……私ね、お姉ちゃんの事が大好きなんだ。双子の妹として生まれてきた事を誇りに思ってる。だから――」 ニュアンスは違うとはいえ、つかさの「好き」という言葉に私の心臓はビクリと跳ね上がった。 「――だから、お姉ちゃんの事を傷つける人は、例え友達でも許す事が出来ないんだよ」 普段は温和な性格のつかさだからこそ、その放たれた言葉がどんな鋭利な刃物よりも私の心に深く突き刺さる。 「…ホントは、こなちゃんとお姉ちゃんの事だから、どんな喧嘩をしても、すぐに仲直りしてくれるって信じてた。でも、一週間以上経ってもこなちゃんはお姉ちゃんに謝りもしない。どうして謝ろうとしないの?」 つかさの表情からは、端から見れば表立った感情は感じ取れない。 だけど、私には――あの時、外国人に道を聞かれ、当惑していたつかさを勘違いで救い出して以降ずっと友達を続けてきた私には、それが手に取るように良く分かる。 私に向けられた感情が、私がかがみを傷つけた事に対する憎しみと、私がつかさの信頼を裏切った事への悲しみだけしかないという事を……。 私の瞳から、抑えきれなくなった感情が流れ出しそうになる。 ここで泣いたら卑怯じゃないか。 悪い事をしたのは私の方なのに……。 「……黙ってても、何も分からないよ」 何も答えられない私に対して、つかさの語気が徐々に強まっていく。 でも、私は自分の意思を伝える事が出来ずに居た。 この抑え切れない感情を、なんとか抑え付けるのに精一杯で――。 皆と一緒に居る事が出来た幸せを失いたくなくて――。 「こなちゃん!」 「好きなんだよっ! かがみの事が!!」 つかさの怒りが臨界点を超えたその瞬間、私はとうとう崩壊のスイッチを押してしまった。 「…へっ?」 「…こなたさん?」 二人とも、私の口からそんな答えが返ってくるとは考えてもいなかったのだろう、心の底から驚いた表情を私に見せている。 …でも、私が今までずっと溜め込んできた想いは、もう止まらなかった。 「…ずっと、ずっと前から好きだった。何度もかがみに告白したいって思って、その度に諦めてた……私達は女同士だから。それに、私がその想いを告げる事で、今の関係――かがみや、つかさやみゆきさんと一緒に過ごす関係が壊れてしまうんじゃないかと思って、そうなるのが怖くて、ずっと気持ちを隠してた。その内に、私は親友としてかがみの傍に居られればそれで良いって思うようになった。…でも、そんな時にあの人が私達の前に現れて、あっという間にかがみを奪っていって、私達と過ごす時間がどんどん減っていって……。それが本当に悔しくて、悔しくて…。それでも必死に耐えようとした。でも、無理だったんだよ! 好きな人が自分の目の前で他の誰かに奪われて行く様子なんて、見たくなんか無かったんだよっ!!」 私の瞳からたくさんの涙が落ちていく。 人前で涙を見せるのは、何年ぶりだろう。 それでも私は溢れ出す感情を、言葉にして紡ぎ続ける。 「今日までずっと後悔してたんだよ。かがみを不幸にしてしまった自分自身に。私がかがみに恋愛感情なんか抱いちゃったから…私がこんなキモイ感情を持っちゃったからっ!! こんな感情、持たなければ良かったのに…。私なんか、存在しなければ良かったのに…!!」 立ってる事も出来なくなって、私はその場に崩れ落ちた。 そこから先は、もう喋る事も出来なくなって、私の嗚咽だけが屋上に響き渡る。 つかさ達の様子を確認する気力すら、最早残っていなかった。 ……でも、もういいや。 何もかもが終わってしまった。 永遠に続くと思っていた関係なのに、ふとしたことで全てが壊れてなくなってしまった。 そして、その原因を作ったのは、全て私のせいだ……。 § どのくらいそうして居ただろうか。 暴走した感情が、再び抑制出来る程に落ち着きを取り戻すと同時に、私は再び立ち上がる。 その間も二人はずっと、私の目の前に佇んでいる。 私は二人の顔が見るのが――拒絶され、軽蔑の目で見られる事が怖くて、顔を灰色のコンクリートに伏せたまま目を瞑った。 過ちを犯した事に対する罰を受けなければならない。 私はその体勢のままで、二人の言葉を待った。 「…こなちゃん、ごめん…」 私の耳に最初に飛び込んできたのは、私に対する罵声でも拒絶の声でもなく、つかさの涙の交じった謝罪の言葉だった。 「えっ?」 驚いた私は、目を開いて視線をつかさに向ける。 つかさは、涙を零しながら、私に謝っていた。 「…私、ずっと勘違いしてた…。お姉ちゃんとけんちゃんが付き合い始める事で、みんなが幸せになれると思ってた…。不幸になる人なんて誰もいないって思ってた……。でも、私は、私の大切な友達を苦しめてた…。ごめん、こなちゃん。本当に…ごめん…なさい……」 そのつかさの様子を見て、今度は私が狼狽する。 「な、なんでつかさが私に謝ってんの? 悪い事をしたのは私なのに。女なのに同じ女の人を好きになっちゃった私が悪いのに…」 「…確かに、こなたさんがかがみさんにキスした事自体は、許される事ではないかもしれません」 泣いたままで、喋れなくなってしまったつかさに代わって、ようやくみゆきさんが口を開き始める。 「…ですが、こなたさんがかがみさんに恋愛感情を抱くという事に関しては、私自身は決して悪いとは思いません。同性愛に偏見を持っている人は確かに少なくはありません。しかし、実際に同性の人を愛してしまう人は存在するのですから、周囲の偏見だけでその人達の権利を蔑ろにするのは私は間違っていると思います。そして、それ以上に――」 そこまで言って、みゆきさんは意図したかのように一度言葉を止める。 「…それ以上に?」 私がみゆきさんの方を向いて、続きを促すと、みゆきさんは穏やかな微笑みを向けて私にこう告げた。 「――友達じゃないですか。私達は。誰かが幸せを感じれば、それを皆で分かち合い、誰かが悩みを抱えれば、それを皆で分かち合い、解決出来るように惜しみのない支援を送る…。それが友達という関係なんだと、私は思っていますよ」 みゆきさんの言葉に続けて、つかさも涙を堪えながら口を開く。 「…私も、こなちゃんの願いを叶える事はもう出来ないかもしれない…。でも、これからもずっとこなちゃん達と一緒に居たいよ……」 「…あ…あ…」 私の瞳からまた涙が溢れ出して来る。 だけど、今度は嬉し泣きだ。 「みんな…ありがとう…ありがとう…」 既に薄暗くなった屋上で、私は泣きじゃくりながらも、精一杯の声でずっと二人にそう伝え続けた。 喪失したものへ コメントフォーム 名前 コメント (/ _ ; )b -- 名無しさん (2023-06-21 16 00 06) 信じられねぇ…優しいな。 いい友達じゃねえか -- 名無しさん (2009-06-01 02 14 03) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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☆こなゆき☆『かがみのお節介』 「あ、おはようございます泉さん、つかささん」 教室に入ってすぐみゆきさんが笑顔であいさつをしてきた。つかさが先にに答え、私も続いて返事をした。 「おはよー、みゆきさん。相変わらず早いねえ」 「眠そうだね、こなちゃん。またゲーム?」 「なかなかキリが悪くてねー」 「私はそういうのは少し羨ましいですね。夜更かしは…頑張って10時半が限界ですから」 「いやいや、みゆきさんはかえってその方がいいのかもよん。ほら、あんまり夜更かししてたらこーんなにいい肌はキープできないよ」 私は手を伸ばしてみゆきさんの頬をちょいちょいと突付いた。みゆきさんは少し苦笑いになりながら恥ずかしそうに赤くなっていた。 「そ、そんな…泉さんのほっぺただってこんなにぷにぷにじゃないですか」 そう言いつつ、みゆきさんもまた私の頬を軽く突付いた。 「いやんくすぐったい♪」 「2人とも仲良しだね~」 ……という感じで今日も変わらずみゆきさんとじゃれあって遊んでいる。 相変わらず照れ顔のみゆきさんは凄く可愛い。うん。 「ほうら席につけー!」 チャイムが鳴り、黒井先生が教室に入ってきた。私たちは直ぐに話を中断して席に付いた。 昼休み――それは退屈な学校生活における数少ない娯楽のひと時―― 机をくっつけ、作ってきた弁当を見せ合い、くだらなくも楽しく談笑をする…それはこの上無き安らぎの時間…ッ 「?、なんか楽しそうだねこなちゃん」 「まあ。そんなにお腹が空いていたんですか?」 「3時限目あたりからギュルギュル鳴ってたよ」 やっぱりランチタイムと言うのは楽しいもんだ。三人ともそれぞれ自分の弁当を取り出す。 「うわあ…相変わらずゆきちゃん凄いお弁当だね」 「はい…今日も、たくさん作ってきてしまいました…」 取り出しましたるは4段重ねの重箱弁当。ここ最近、みゆきさんは物凄い量のお弁当を作って持ってきている。 みゆきさんはあまり料理は得意でなかったんだけど、私とつかさ、あと峰岸さんに教わってからは、料理が楽しいらしく、こうして大量に作ってきてはみんなにおすそ分けしている。 ちなみにこの弁当、無理なダイエット中のかがみを号泣させたことのある代物でもある(ドラマCD参照)。 「あれ…ところでかがみは?」 「……いらっしゃいませんね」 いつもならこの辺で「おっす」とか言いながら来るはずなのに。と、突如メールの着信らしき音が鳴り出した。 アニソンじゃないので私じゃない。なんて思っていると、つかさがポケットからピンクのケータイを取り出した。 「………お姉ちゃんからだ。…お姉ちゃん、今日は日下部さんたちと学食で食べるんだって」 「えー!?」 「そうですか…なら仕方ないですね…」 「……じゃあ食べよっか」 渋々しながら三人は弁当を広げた。やはりというかみゆきさんのが圧倒的だ。これをかがみ抜きで完食せよとおっしゃるのか。 「あ、あの…無理はしなくてもいいですよ・・・?」 「何言うかみゆきさん!今食べないと絶対傷むよ!?」 「もう暑いもんねぇ」 「でも残りそうなら他の方にもおすそ分けしますよ。例えば…副委員長さんとか」 「A君?……ダメッ!あんな軟弱ものにみゆきさんの手料理は食べさせられんよ。……あ、美味しい」 「食材の切り方も上手くなったねぇ」 「あ、ありがとうございます」 つかさが評価を下し、みゆきさんがそれに従う。なるほど、かがみの言うとおり異常な光景に見えるなあこれは。 「ところで、もうすぐテストがあるよね?私分からないところがあって、ゆきちゃんにちょっと聞きたいとこあるんだけど」 「聞きたいことですか?……なら今日の放課後、勉強会をしましょうか?丁度この時期にいつもしてますし、ね?」 「うん、私はいいよ?こなちゃんもいいよね?」 「んー……?」 めんどくさい。それが素直な感想だった。けどまあいつものことだし、断ったらかがみに怒鳴られること受けあいだし、…まあそれほど悪い気もしないし。 「いいよ。放課後ね」 「はい!………あら、泉さん…」 急に顔を近づけられ、たじろいでしまう。 「ふふ…ほっぺにごはん粒ついてますよ」 みゆきさんの人差し指にゆっくり頬を撫でられた。そして指ですくったお米をそのまま食べてしまった。 「…………」 「泉さん?」 「き………」 「き?」 「キタアアアア!ヒョイパク来たあああああああ!!」 「え?え?」 「さすが分かってるね、みゆきさん!単純ながら絶大な破壊力を持つ必殺技!これをされてときめかぬ男子などいないッ!!」 「泉さん!と、とにかく落ち着いてください!」 …そんな騒がしく楽しい、極いつも通りの昼食だった。相変わらずみゆきさんは萌えさせてくれる。一緒にいて飽きない、自慢の親友だ。 「…あれ」 昼食を平らげたので次の授業の準備をしようとした。まあ教科書を取り出そうとしたくらいだけど。…ところが机の中にはその教科書が無い。 …忘れた?や、私はいつも学校に教科書を置いて帰っているのでそれは無いはず。当然、鞄は空っぽだ。 (世界史か……やっぱり記憶に無いなあ) 「?泉さんどうしました?」 隣を見ると、みゆきさんは既に授業の準備を完了していた。そして直ぐに何事かも分かったらしい。 「もしかして…忘れ物ですか?」 「うん。教科書がない」 どう頭を捻っても家に持ち帰った記憶が無い。唸っているところでつかさが口を開いた。 「今日は確かC組も世界史はあったと思うよ?お姉ちゃんに頼んでみたらどうかな?」 「…それしかないかあ」 いつもの2人と学食に行ったらしいけど、まあそろそろ戻ってる頃だろうね。 「じゃあちょっくら行ってくるよ」 席を立ち、私はC組に向かった。 もう何度も入ったことのあるC組の教室。当然かがみの席の場所も把握している。既に目が向いていた。 「か~がみ~」 「お、こなた。昼は悪かったわね」 実に慣れた様子。そして私が何の用があったのかもおおよそ見当がついてそうだ。 「…また宿題?」 「ハズレ。実は教科書忘れてさ~」 「アンタが?珍しいわね」 「世界史なんだけど貸してくれる?」 「はいはい…っと」 程なくしてかがみは世界史の教科書を取り出した。…が、それをそのまま渡してはくれなかった。何やらかがみは一点を見つめている。 しばらくしてかがみが申し訳なさそうに目線を合わせてきた。 「………ごめん、これアンタのだわ」 「えぇー!?何ソレ!!」 思わず声をあげる。どうやら先ほど凝視していたのは名前欄のようだ。 「ずっと前貸してもらってそのままだったのね……」 「記憶に無いはずだよ…」 「ごめん!ほんとごめん!!…テスト週間前なのは幸いだったわ…」 テスト。その言葉に忘れていたことを思い出した。 「そうそうかがみ、今日放課後に勉強会やろうってことになったんだ。当然来るよね?」 もちろん。――そんな言葉で即答されると思い込んでいた。けれどかがみは少し考える仕草をした後、思いもよらぬ言葉を口にした。 「私パス」 あまりに短い返答だった。 「え、なんで!?」 「う~ん、今日はちょっと、ね」 「そんな~…かがみが来ると思ったから私も参加したのに…」 「何よソレ」 「今まで私が来なかったらすっごい怒ってたじゃん」 かがみはわざとらしいくらいに肩を落とし、大きくため息をついた。そしてあごに手を当て、また何か考えてるようだった。 「………ちょっとアンタと話したいことがあるんだけど」 「え」 露骨に嫌な顔をしてみせた。また何か説教をされると思ったからだ。でもどうやら違うみたい。 「まあ、大したことでもないんだけど……」 「んー?時間無いからなるべく簡潔にね」 「簡潔ね…」 「ほぅら早くぅ」 「アンタみゆきの事、好きでしょ」 「っ!!??」 この上なく簡潔、それでいて冗談のようなかがみの言葉。思わず息を詰まらせてしまうがかがみは冗談のつもりではないらしい。 「な、ななな…何を言ってるのかね君は!?」 「最近のアンタのみゆきへの態度を見るとそうも見えるわよ」 何を言ってるのか、本気で理解が出来なかった。話が急すぎて理解が追いつかないのもあると思う。それでも私のみゆきさんへの態度がそう思わせるのはちょっと飛躍しすぎじゃなかろうか? 「いや、いつも通りでしょ?少なくとも私は意識してないよ」 「…じゃあ自分で気づいてないってことかしら?」 「そ、そりゃ頼れる親友だけど…でも、だからってそんな…いやだからそういうのとは違うってば!」 いきなり頭の中をかき回された感じだ。言葉がうまく出てこない。 「…いくらなんでも動揺しすぎよ」 「かがみが変なこと言うからじゃん!」 嫌な汗がどっと出てくる。拭うのも忘れるほど、私は明らかに動揺していた。 一方かがみは、しらけたような、或いは探るようね目で覗いてくる。 「…本当にそうじゃないのね?」 「断じて!」 「ふぅん……」 ちょっとした静寂が2人の中に流れた。そしてすぐにかがみの顔つきも変わった。 「じゃあ…私がみゆきを貰っても、問題ないのね?」 「なっ……!?」 また頭の中が真っ白になる。今度は言葉そのものを奪われてしまった。 「みゆきって優しいからねぇ。ずっと前に私が風邪引いた時とかも、ただの風邪なのにわざわざお見舞いにフルーツまで持ってもって来てくれたのよ。 しかもそのフルーツの皮を剥いて食べさせたりしてくれたし。後、隣のクラスで家も遠いのにプリント届けてくれたり、休んでた時の分のノートとかもちゃんと見せたりしてくれて、本当に頼りになるわ」 「そ、それは……それはみゆきさんが優しいからで……別に、かがみが特別なんじゃ…!」 自分が凄く嫌な事を言ってるのがわかる。実際にそれを言ってしまうほどに私は混乱していた。 「誰にでも特別優しいから…でしょ?きっと私だけじゃないわ。あんたのクラスの男子とか、もしかしたらつかさだって……」 「ッ…………」 嫌だ。 少しだけ、想像した。みゆきさんが誰かの恋人になるのを。たまらなく嫌だった。男子でも女子でも。 「……はい、これ」 俯き加減の私にようやく教科書を渡された。でも今の私の関心はそこには無い。 「かがみ…」 「さっきのは冗談。………でもこれで分かったんじゃない?自分に正直になりなさいよ」 よく分からない。頭が回りきらないうちに昼休みの終わりを告げるチャイムがなった。回りの生徒たちも自分の席、或いはクラスに戻っていく。 「ほれ早く戻んなさい。黒井先生でしょ?殴られるわよ」 「あ、うん……教科書ありがとうね、かがみ」 「………元々アンタのだけどね」 それもそうだった。苦笑いになりながら私は自分のクラスに戻った。 いつもながら同年代の誰よりも小さい背中を見送るかがみ。小さくため息が出てしまう。 (我ながらお人よしねえ…) それにしても、とかがみは思う。こなたは普段は他人の恋沙汰なんて面白おかしく小ばかにするくせに、自分の事になるとまるで耐性が無い。…まあ人の事もいえないか。 (勉強会か…) きっとつかさも居るだろう。だがあの2人の間につかさが入るというのは…ちょっと面白くない気がしないでもない。 かがみもまた厄介なことを言ってくれる。今やもうみゆきさんを直視するのがちょっとキツイ。 結局、授業にも集中できず、先生から何発もの拳骨を喰らうことになった。 「頭いたいよぉー…」 「こなちゃんすごく叩かれてたもんね…」 「保健室行きますか?」 放課後、ほとんどの生徒はもう帰り、私たちは決めたとおり図書室で勉強会の真っ最中だ。 「いや、大丈夫だよ。ありがとう2人とも」 正直、そこまで痛みは残っていない。ただ何となく気まずい感じが拭いきれないのでわざと大袈裟に騒いで見せているのだ。 「ゆきちゃん、この問題なんだけど…先にこっちを解いたらダメなの?」 「着眼点は悪くないですね。確かにそれならこの手の問題は早く解くことが出来ます。…でもその式はちょっと複雑でミスをしやすいので慣れるまでは……」 真面目にみゆきさんの言葉を聞き、しっかりノートを取るつかさ。今の私にはできないだろうな。 そもそも2人っきりは無理だと思う。みゆきさんへの思いは私自身まだよく分かってない。願わくば、今日はつかさに時間を稼いでもらって適度に濁したいと思っている。 日を改めて自分を見つめなおしたい、と私は考えていた。 RRRRRRRRRR.... 突如、誰かのケータイが鳴り出した。昼も聞いた音、何か嫌な予感がした。 つかさは急いでケータイを取り出す。しばらくしてつかさの顔色が変わった。 「……ごめん、私もう帰らなきゃ」 「うぇ!?なんで!??」 「お母さんがちょっと体調崩したみたいなの。だから今日は帰って家の手伝いしなきゃ」 「え…大丈夫なんですか!?」 なんという絶妙なタイミング。というか明らかにおかしいでしょこれは。…まさか? 「ねえつかさ…誰からメール?」 「お姉ちゃん。…あ、かがみお姉ちゃんね」 やはり………ッ! 「仕方ありません、今日はこれくらいにしましょう」 「そ、そうだね!そろそr」 「ううん、私のことは気にしないで?それに、私ばっかりゆきちゃんに質問してたからこなちゃんに悪いよ。2人はそのまま続けて?」 「でも…本当によろしいんですか?」 「大丈夫だよ、そんなに深刻じゃないから!」 希望はほんの刹那だった。つかさは荷物をまとめ、さっさと帰ってしまった。ついに私とみゆきさんは図書室に2人きりとなってしまった。 「…続けましょうか。分からないことがあればなんでも聞いてくださいね?」 「う、うん…」 それからしばらくは真面目に勉強するしかなかった。問題が分かっても、分からなくても、どんどん進んでいく。 私もみゆきさんも一言も発さず、図書室にはペンが走る音だけが静かに流れていた。 チラッとみゆきさんの方をみる。普段から使われているであろう教科書は随所にメモやワンポイント等が見られ、いい意味で真っ黒に汚れていた。自分のそれは言うまでも無く白い。 (本当に勉強が好きなんだなあ) 何もかもが、自分と違っていた。外見もそうだけどそれ以上に中身が違う。勉強大好きでアニメにも興味ないし、全くといっていいほど共通点が無い。 それなのに。みゆきさんが、彼女と言う存在が…気になってしょうがない。 (素直に…か) かがみに言われてハッキリした。自分はみゆきさんが好きだって。可愛くて優しくて。一見完璧なんだけどどこか抜けてる。そんなみゆきさんが…大好きだ そんなことを考えていたのがいけなかった。ペンの動きが完全に止まっていて…それをみゆきさんに気づかれた。 「泉さん?」 「うおわぉ!?」 素っ頓狂な声をあげてしまった。しかしみゆきさんは気にならなかったようだ。 「やっぱり具合が良くないのですか?」 「え?」 「顔、真っ赤ですよ」 「嘘!?」 言われて気づいた。自分の顔が物凄い熱を帯びていることに。それを実感するとまたさらに過熱して行ってしまう。 「だ、大丈夫だよ!び、病気とかじゃないからさ…」 「……じゃあ、何故?」 「え……」 完全な静寂が訪れた。言葉につまり、何も言えなくなる。しかし心臓の鼓動だけはどんどん早くなってきた。 (素直に……) 素直……。………………言って、しまうべきなのかな…? 「泉さん?」 「あっ………」 限界だ。もう。胸がバクバクいってる。そのうち破裂してしまいそうなほどに。 ……………言おう。その方が楽になれるハズだ。 「………み、み、みゆき、さん」 「は、はい…?」 口で大きく、しかし気づかれないように深呼吸する。いつも軽口言うようにすればいいのに、出来ない。 前髪で視覚をさえぎったまま、みゆきさんの目を見ることも出来ないで居る。 それでも、声を、言葉を、押し出すように私は口を開いた。 「私っ…みゆきさんの事が……っ!」 ガラララッ (!?) 図書室の戸が開いた。その先に居たのは毎日顔を会わせていた人物。ゆーちゃんだ。すぐ後ろにはみなみちゃんも見える。 「あ、こなたお姉ちゃん、高良先輩!こんなところにいた!実は私たちもテスト勉強教えて欲しく…て……」 急にゆーちゃんの歯切れが悪くなった。きっと気づいたんだ。私たちの間に流れる、異質な空気に。 「…失礼しました」 後ろに居たみなみちゃんが、固まったゆーちゃんに代わって頭を下げた。そしてそのままゆーちゃんを連れ出し、静かに戸を閉めた…。 出かけていた言葉が死んだ。もうあれだけの勇気を振り絞るだけの体力は残っておらず、私は空笑いしながら力なくうな垂れた。 「泉さん」 「あ、いや。何でもないんだよさっきのは……」 暖かい手が私の頬をなでた。優しい手つき。何か懐かしい気もする。 「………私、泉さんが好き、です」 「!……」 目頭が一気に熱を帯びた。反射的にグッとこらえる。みゆきさんの表情はよく見えない。というか自分の前髪で遮ったままだ。 私は答えた。自分の抱えていた気持ちを。 「わ、私も……す、き…」 「本当によろしいのですか?泉さん」 「う、うん」 みゆきさんの膝の上に、向かい合わせになるように私は抱きしめられていた。そのため嫌が応にも視線が重なる。 最初は互いに躊躇っていたけど、気がつけばとても長いこと見つめ合っていた。 やがて目を瞑り、無言のままに私たちは、唇を重ね合わせていく…。 「んっ……」 柔らかく潤った唇だった。 「……んぅ…」 みゆきさんの抱きしめていない方の手が、私の胸や太ももなど、体中をを撫で回す。 一瞬、みゆきさんの口が離れた。 「…嫌なら、遠慮なく言ってくださいね?」 「うん、大丈夫…」 もう一度、口付けを交わす。更に今度はなんと舌を口内に滑り込ませてきた。流石にビックリしたけど、私は受け入れた。こちらからも積極的に絡ませていき、お互いの唾液をなんども交換していく。 …ここで凄く気持ちよくなっちゃって、この先の記憶はちょっと曖昧になっている。…多分この後もいろいろされたと思う。 でも、嫌じゃなかった。みゆきさんは、私のことをちゃんと見てくれて、気持ちよく導いてくれてくれたから。 (あ、そうなんだ…) 素直になる――こういうことなのかな……? 「…みゆきさん」 「はい?」 「ずっと、一緒にいてね?」 「…喜んで」 夕日の差し込む図書室で…あまりに子供のような少女と、あまりに大人っぽい少女が、いつまでもいつまでも抱きしめあっていた。 「…あれ?お母さん歩き回って大丈夫なの?」 「え、何が?」 「つ、つかさ!今から買い物行くから、ちょっと付き合ってくれない!?」 「ええ??」 ■☆こなゆき☆スレ別保管庫(1スレ目)に戻る コメントフォーム 名前 コメント 訂正しました、ご確認下さい -- konayuki (2010-03-23 03 21 44) 「まあ…大変ですね」 なんという絶妙なタイミング。というか明らかにおかしいでしょこれは。…まさか? 「ねえつかさ…誰からメール?」 「お姉ちゃん。…あ、かがみお姉ちゃんね」 やはり………ッ! 「仕方ありませんね、今日はこれくらいにしましょうか」 「そ、そうだね!そろそr」 「ううん、私のことは気にしないで?それに、私ばっかりゆきちゃんに質問してたからこなちゃんに悪いよ。2人はそのまま続けて?」 「分かりました。私自身、もう少しキリのいいところまで行きたいですし」 の部分を、 「え…大丈夫なんですか!?」 なんという絶妙なタイミング。というか明らかにおかしいでしょこれは。…まさか? 「ねえつかさ…誰からメール?」 「お姉ちゃん。…あ、かがみお姉ちゃんね」 やはり………ッ! 「仕方ありません、今日はこれくらいにしましょう」 「そ、そうだね!そろそr」 「ううん、私のことは気にしないで?それに、私ばっかりゆきちゃんに質問してたからこなちゃんに悪いよ。2人はそのまま続けて?」 「でも…本当によろしいんですか?」 「大丈夫だよ、そんなに深刻じゃないから!」 という風に訂正してほしいのですが、よろしいでしょうか? -- 144 (2010-03-22 02 04 20)
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今日も、北風の音を合図にして、星が昇っていく。 カレンダーの日付は、二月十三日。 明日はいよいよ、女の子たちのお祭り――バレンタインデー。 一歩外に出れば、そこは乙女たちの欲望番外地。 机の上にあるノートパソコンの画面の中では、粛々と過ぎていくイベントの一つなのに、 現実世界(リアル)でこの類いの行事を見る度、妙な違和感が残る。 リボンでラッピングされたチョコが、女の子から男の子へ。 最近では、ホワイトデーを待たずに、男の子から女の子へ贈ることもあるらしい。 それに『ニュースで見たんだけど、今年は友チョコっていうのが流行りそうなんだって』 と、今朝方ゆーちゃんが言っていたのを思い出した。 今の世の中では、女の子同士でチョコを交換することだって、いわば普通だ。 そうだよね、何の問題もないから、明日……。 ふと、ここまで来て私は、自分以外誰もいない部屋から、リズミカルに着信音を刻む 携帯電話のメロディが響くのを耳にしていた。 もしかしたら、考え事をするずっと前から鳴り続けていたのかもしれない。 ――さてと、電話の相手は誰だろうね。まあ、こんな夜更けにかけてくるのなんて、 寂しがり屋のうさぎ位しかいないんだけどさ。 「こなたー。アンタ確か、明日ウチに遊びに来るんでしょ?」 電波の先にいた通話相手――かがみは、早速本題を切り出してきた。 高校を卒業して以来、直接会う機会こそ減ったものの、携帯電話やメールでの やりとりは今でも続けている。 「そだよ。久しぶりに一日中しゃべり通そうって話だったと思うけど」 「だったら、なるべく早く来なさいよね。つかさが腕によりをかけて、 バレンタイン用のお菓子を作ってくれるみたいだから」 “つかさが”か……。 確かに、料理の専門学校に通うようになってから、ますます腕をあげたって いうのは聞いてたから、楽しみだなぁ、という気持ちはもちろんあった。 でもね、かがみ。 つかさを隠れ蓑にしたつもりなんだろうけど、私の目は誤魔化せないよ。 どれどれ、ここは一つ仕掛けてみようかな。 66 :『バレンタイン・イヴ』:2009/02/19(木) 00 37 06 ID kUSljfg2 「うん、期待しておくよ……ところでかがみんや。頬っぺたに、 味見した時のチョコがつきっぱなしだよ」 「えっ、嘘っ!? ちゃんと拭き取ったハズなのに……あっ」 ほうら、やっぱりボロが出た。相変わらず可愛いねぇ、かがみは。 「慌てなくたっていいよ。私のことが好きだから、ちゃんと味見してくれたんでしょ。 高校の頃、そんな感じのこと言ってたし」 「なっ、ち、違うわよ。これは私の意思でしたんじゃなくて、つかさが、その……」 「ふふん、それじゃあ明日は楽しみにしてるよ。んじゃ、バイニー」 「ちょ、おまっ。人の話を聞きな――」 私は、問答無用で通話を終了した。 その後、かがみから弁解のメールみたいな物が届いていたけど、 私はあえて中身を確認しなかった。だって、中身を知っちゃったらさ。 今度は、私の方が味見しにくくなっちゃうじゃん……なんてね。 ☆ ☆ ☆ キッチンには、お菓子作りの為の道具が一列に並んでいた。 業務スーパーで買い込んだ輸入物の板チョコ。湯煎用のボールや オーブンシートなんかの調理器具。それに、巨大な星形の型。 全て、明日かがみにチョコを渡す為の準備だ。 ……べっ、別にさ、去年や一昨年の時のお返しだとか、そういうのじゃないんだヨ? ただ単に、あたふたするかがみが見たいだけ。そこに居合わせて、いじり倒したいから、 作ることにした。ただそれだけのこと。 だけど、星形のチョコ……と見せかけて、実はヒトデなんだよとか言ったら 『また何かのアニメのネタなのか?』って突っ込まれるんだろうなぁ、きっと。 でも、怪訝そうな顔をして突っ込みを入れるかがみの顔を思い浮かべると、私は凄く癒される。 心拍数が上がって、顔が火照ってきて……あれ? なんだろう、この気持ち。 ああ、きっとエプロンをきつく着過ぎただけだよね、きっとそう。 「さ~てと。絶対に上手く作って、かがみを驚かせてあげなきゃね」 特別な夜が、更けていく。鼻をくすぐる良い匂いを奏でながら。 とろけるような、チョコの味。 私とかがみの関係は、ビター? ミルク? それともホワイト? 答えは、もうすぐそこまで。 溶け合えばいいな、私の生まれて初めての――バレンタイン・チョコ。 コメントフォーム 名前 コメント (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-18 08 12 26) むしろ、かがみにチョコを渡した瞬間に、サウナより熱い愛の空間が出来て、チョコが溶けそう -- 槍男 (2010-02-26 22 10 19) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)